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2.格
警官隊に先導され、馬に乗って駆け付けたのは大陸横断鉄道の駅の前。大勢の人々が集まり、輪を作って何かを囲んでいる。おそらく罹患した者がその中にいるのだ。
その場に到着する寸前、サランサガは理解した。笑みを消し、鋭い眼差しで怯える群衆の人垣の向こうを見透かす。
「……警部、至急皆さんの避難を。ここにいる方々だけでなく、三ブロック先まで全員退避させてください」
「なんですと?」
「今回はさっきの集合住宅の小物とは違います。あれは確実に"Bランク"以上でしょう」
「なっ!?」
対象の脅威を直感的に理解しやすくするため、警察と笑う聖職者の間では供物病患者の危険度に応じた格付けを行っている。ついさっき倒したあれは最低のDランク。あの程度ならサランサガ一人でどうとでもできる。
一つ上のCでようやく彼女と互角。そしてBともなれば複数の仲間と協力しなければならない相手だ。下手をしたらこの都市そのものが壊滅しかねない。
さらに、仮にこの見立てが間違っていてAランクだとしたなら──国家滅亡の危機である。
「早く! 手遅れにならないうちに!」
「わ、わかりました! おい、お前達市民を──」
この七年間で警察も数々の供物病患者と、そして彼女達"笑う聖職者"の活躍を見て来ている。今さらその言葉を疑ったりはしない。キチンとヒゲを整えた壮年の警部は言われた通り部下達と市民の避難誘導を始めようとした。
ところがその瞬間、何かが空間を駆け抜ける。
「あ……」
「なに、が……」
「シスタ……ァ……」
警官達は石になった。市民も、さらに遠巻きに建物の中に隠れて成り行きを見守っていた人々も、ことごとく石化した。
石像の群れと化した人垣の向こう側から、奴が声をかけてくる。
「逃がすものかよ。誰一人、この"食卓"からは逃げさせん」
「野郎ォ……」
見立ては間違っていた。鎖を両手でピンと張り、スリットの入った動きやすい修道服でめいっぱい足を広げ、身構えるサランサガ。
「Aランクかよ……チクショウめ!」
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