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3.憑神
供物病、その正体は高位精神生命体による人間への寄生だ。
彼等はかつて"神"と名乗っていた。人類に干渉し、正しく導く振りをしてその実、自分達にとって都合の良い家畜に仕立て上げた。宗教を作り、過度に厳しい戒律を課すことによって苦しめた。
何故なら、彼等の食糧は"負の感情"だから。高度な知性を持ち、感情豊かな人間の放つ怒り、嘆き、苦痛は神々にとって最上の馳走だった。
ところが、七年前のことである。
天災によって彼等は大きなダメージを受けた。それは種族そのものを大幅に弱体化させるほどの巨大な傷。
霊力も知能も衰え、弱り切った彼等は回復のための手段として、またしても人類を利用した。人に寄生し、宿主とその周囲の者達を傷付け、貶め、不幸にすることで、より効率的に負の感情を吸収し始めたのだ。それこそが供物病の正体。
堕天し、物質界に顕現した"神"の大半は"笑う聖職者"によって始末された。弱体化した状態の彼等は、早期の段階で発見できれば大した脅威にはならない。
けれどもし、すぐに発見できなければ。上手く潜伏され、力を取り戻す機会を与えてしまったなら。
ああなる。
「ふふふ……"笑う聖職者"か。この結界術は人間達のためではなく、君達を炙り出す目的で開発したんだよ。広範囲を石化させてしまえば、簡単に君達を見つけられるだろう?」
白い肌に黒い髪。濃紺の瞳で均整の取れた筋肉質な体つきの男だ。彼は宙に浮いている。全身から青白い光を放ち、それによって空中高く浮かびながらこちらを見下ろしてきた。
飛行術。あれこそ霊力が復活している証。しかも中に入った人間を石にしてしまう広範囲結界。数ブロック先まで広がっているようだ。ここまでできる奴がBランクなはずはない。
「君達は勝手に私達を格付けしているそうだが、失礼じゃないかな? せめてそちらも位階を明かしたまえ」
男の言葉を聞いたサランサガは渋い顔で言い返す。少しでも時間を稼ぐためだ。
「一応、第三位」
「それはそれは、堕天したばかりの頃の私なら怯えて逃げ出すか、泣いて命乞いしていたかもしれないな。しかし、今ならそんなみっともないことはしない。する必要が無い」
「そのようで」
犬歯を剥き出しにして唸る。己の力にそれなりに自身を持っている彼女でもわかっていた。今のあの男は圧倒的な力を有していると。自分一人でどうにかできる相手ではない。
あそこまで力を取り戻すために、いっったいどれだけの人間を犠牲にしてきたのか──想像すると胸糞悪くなった。
「もったいねえ……!」
「相変わらず、価値観が違うようだな。だからこそ、こういう手が効く」
男は眼下の石像が密集している場所に対し手の平を向けた。それだけで相手の意図を見抜いたサランサガは素早く動くき出す。
「砕けよ!」
「ぐうっ!?」
両手で握った鎖を前に突き出し、男の放った霊力の塊を受け止める。しかし受け切れない。頑丈極まるこの鎖が砕けることはないだろうが、彼女の両手は皮膚が割け、肉まで弾けて血を噴き出す。
「ク……ソッ!」
それでも辛うじて力の塊を弾き返した。相手にしてみれば、ちょっと息を吹きかけた程度の攻撃だったはず。それでこの威力なのだから堪ったもんじゃない。
「やはり人間を守るか。変わらんな、お前達は」
「テメェらこそ……いつも、いっつも! 食いモンを無駄にしやがって!」
「おっと、気を付けろよ。何も見えていないし聴こえてもいないはずだが、彼等の意識はまだ残っている。何かの拍子に今の言葉が届いていたりしたら、困るのは君達だぞ?」
「るっせェ! いつまでも見下ろしてねえで降りて来やがれ! アタシが相手になってやる!」
「力の差があるとはいえ、第三位の"剛魔"相手に接近戦を挑むほど馬鹿じゃない。このまま、そこから動けない君をいたぶらせてもらうとしよう。そら、次が行くぞ」
「チクショウ!」
再び放たれる霊力の砲弾。
今度は鎖を振り回し、それを最初から弾いて防ぎ続けるサランサガ。
見下ろす神の顔に得意気な笑みが浮かぶ。
「ほらな、その鎖も強力な武器だ。君達は強いよ。まさか、我々が嵌めた枷を逆に利用して戦うとはな……流石は上級魔族」
「テメェに褒められたって嬉しかねえんだよ! てか笑うのやめろ! テメエの"味"は最悪だ、クソヤロウ!!」
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