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願望
S氏は裕福でもなく、かといって生活が厳しいというわけでもなく、普通の生活をしていた。そんなS氏の休日は、いつも通りに流れていた。
朝起きて、健康のための三十分ほどの散歩で、神社で参拝をする。そしてその足でそのままコンビニに行き、朝昼用のパンと牛乳を買い、家に帰り、録画している番組を消費しながら朝ごはんを食べ、洗濯物などの家事をする。それがいつもの休日の流れだった。
掃除機をかけていると、声が聞こえた。
「君の願いをかなえてあげよう」
それはテレビからの声ではなかった。テレビでは日常系百合アニメが流れている。だから明らかに違った。
アニメの見過ぎで、幻聴が聞こえたのだろうか。もし、それが本当だったらと思うと、危険だな、と思いながら、また掃除を再開する。
また声が聞こえた。
「君の願いをかなえてあげようじゃないか」
これは本当に精神科の受診を考えたほうがいいかもしれない。S氏は少し休むことにした。
ダイニングテーブルの椅子に座り、牛乳を飲む。すこし脂肪分が多い気がした。
まばたきをすると、目の前に知らない人が座っていた。和服を着て、神々しい雰囲気を醸し出している。
「……誰」
「さっきから話かけているのに、ひどいじゃないか」
「幻聴かと思いまして」
「そうかそうか。それなら仕方がない」
とても不思議な人だと思った。
「分かると思うが、私は神様だ」
「神様ですか」
「そう神様だ」
いきなり現れた人にいきなりそんなことを言われて、「はいそうですか」と言える人はどれだけいるだろうか。
「だから、君の願いをかなえる力がある。君はどんな願いを望むか」
多分、これも幻想なのだろう。まぁ、この幻想にも付き合ってみようか。そしてこのあとは精神科に行こう。
S氏はケータイでiモードを起動し、とあるサイトを開いた。
「異世界に行ってみたいです」
「ほう。異世界か。それはどんな世界だ」
「まだ文明が発達していなくて、みんなが野菜とかを育てながら生活をしていた時代です」
「ほう。そういう世界なのだな」
「はい」
「なら、その世界に連れて行ってあげよう」
その人物は手を振った。その瞬間、S氏の意識は沈んでいった。
10XXX年。文明は上りに上り、人類はあらゆるものを手に収めていた。宇宙ではあらゆるところに人類が降り立っていた。
K氏は超高性能のヘッドマウントを外し、椅子に腰かけた。
「過去に行き、そのときの人間の願いを叶え、そのときの反応を調べる研究を長いことしているが、異世界に行きたいという願いは初めて聞いたな。だから、第五群の惑星に彼を送り込んだが、どんな反応をするのだろうか。これまでの人間は、一生遊んで暮らせる金を所望して、どんどん落ちていくばっかりだった。だから、この人間のデータは非常に面白くなるに違いない」
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