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その7
「……以上が事の顛末です」
数年後。俺は陽光がきらめく喫茶店で取材を受けていた。
聞き手はホラー雑誌の編集者だった。実体験を募集したコーナーに応募したことがきっかけだった。
『ぜひ、取材をさせてほしい』
そう言われ、この日、この場所で落ち合い、取材することになっていた。
テーブルには飲みかけのコーヒーが二つ、だいぶ時間がたっているので、完全に冷え切った状態で置かれている。その傍らには編集者のテープレコーダーが置かれている。
「なるほど…」
編集者は食い入るようにその話を聞き、そして、聞き終わった直後にぼりぼりと頭をかいた。
「つまり、あなたはずっとその女の子の幽霊にとり憑かれている、とのことですか…」
「…はい」
「霊媒師や神社とかには行かれました?」
「…ええ。何とかしたくてね。でも…」
思わず言葉が詰まった。そう、あれから俺の人生は文字通り滅茶苦茶になった。眠れず、落ち着かず、どこに行っても"女”の影に怯え、邪魔され、すっかり落ちぶれてしまっていた。全てを"女”のせいにする訳ではない。気持ちの問題だと言う人もいる。しかし、それでも、それでも彼女のせいだと断言できた。
なので、少しでもこの現状を打破すべく、色々なことを試した。神社に行ってお祓いをし、寺に行って祈祷をしてもらい、霊能者のところに行って祓ってもらい、場合によっては厄除けのお札や壷まで買った。しかし――
「効果は無し、ですか……」
「はい…」
そう呟くほかなかった。どこへ行っても同じ答えが返ってくる。
『あまりに怨念が強すぎてどうすることもできない』
と。
「……もうね、俺は諦めようと思うんです」
その言葉に、編集者の眉がピクリと動いた。
「だってそうでしょう?こうなったのも全て母のせいなんです。母があんな酷いことをしたから、あんな、人を傷つけるようなことをしたから。だから息子の俺にまで被害が及ぶようになったんですから」
「でも、あなたは関係ないじゃないですか。あなたはただ、普通に生きていただけ。過去にお母さんがいくら酷いことをしたからといって、それをお子さんであるあなたが被って良い筈が無いんです」
「でも、それでも受け入れるしかないんですよ。だって、そうじゃなかったら、あまりにも彼女が浮かばれないじゃないですか。あんなに酷いことまでされて、それで恨みを受け入れろなんて、あまりにも酷すぎます。それなら息子である俺が受け入れるしかないんです」
「しかし…」
「あなたも気をつけたほうがいいですよ。どこで恨みを買われるかわかりませんからね。老婆心ながら言いますが、決して人の道から外れるようなことはしちゃいけませんよ。さもないと……」
まくし立てる俺を見つめていた記者の顔がぎょっとしたものになる。彼の恐怖が、戦慄が襲い掛かったのを感じた。
「こうなりますから…」
記者の目に俺と"女”が写っていた。すっかりやせ細った俺の顔と、その横でニタニタと嗤う"女”の顔が――
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