補足

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補足

 こんにちは、あとがきを読んでいただきありがとうございます。  この章はネタバレを含むあとがきであり、基本的に補足説明になります。ネタバレばかりなので、まだ読んでいない方はそちらから読むことをおすすめします。  自分は短編を書くのが初めてでございましたので、いろいろな点を省いてまとめました。なので、今回はこの省いた点(暗喩など)について補足したいと思います。 Q:「ソルフェージュの無人教室」って結局どういう話なの?  「ソルフェージュの無人教室」は、ザックリ言うと現実逃避をやめた少年の話です。  仲が良く、ひっそりと恋心すら抱いていた幼馴染み――糸杉を失った主人公(瀬川)は、日常的に彼女の幻覚を見るほど心を病んでいました。周囲の人物はそれを気遣って合わせたりしています。  空き教室で糸杉が弾いていたピアノの音は主人公にのみ聴こえており、その音色は彼が自身の記憶から引っ張り出しているに過ぎません。また、糸杉が語った知識も同様です。かつて糸杉が教えてくれた一連の流れを、もう一度繰り返していることになります。  一方の最終話では、主人公も聴いたことのない音色が流れてきます。もちろん彼にしか聴こえていない幻聴ですが、こちらは記憶の中の音楽を再生しているわけではありません。より悲哀を意識したこの演奏は、正真正銘、糸杉からのメッセージです。  この曲は、傷心した主人公の見る暗い世界……言い換えれば、糸杉がいない、色のない人生を奏でています。まるで暗い水面のように。  ですが、同時に「私をここまで想ってくれたこと」に対する感謝、そして「ちゃんと前を向いてほしい」という願いも込められています。言わば幽霊からのエールであり、作中では桜の花びらに置き換えて表現しています。  聴いたことのない音色。その意味を悟った主人公は、ようやく前を向くことができる。幻の中に現れた糸杉の幽霊に背中を押され、涙を流す。  ――といった内容です。  (タイトルに込められた意味は後述)  時系列でまとめると、以下になります。 1、糸杉と同じ高校に入学。クラスは離れるが、空き教室でピアノを弾く糸杉を見つけ、初めて幼馴染みの特技を知る(作中一話) 2、恋心を自覚するが、糸杉が亡くなる(二年に進級するまでの間) 3、幻覚を見始める。糸杉がよくピアノを弾いていた空き教室に通うように(作中二話冒頭) 4、春山先生に原稿用紙を渡される(作中二話) Q:登場人物はなにをしていたの?  メインの二人と接点があった登場人物は、主人公が糸杉の幻覚を見ていることを知っています。そのため、基本的には話を合わせたり無難な対応をとっています。  作中で触れられたのは主に二人です。  〈春山先生〉  原稿用紙を手渡した春山先生は、主人公が糸杉の名前を出すことに対して無難に笑みだけを浮かべます。応援はすれど、「二人で」「あなたたち」などという言葉は極力避けています。最後には口を滑らせてしまいましたが。  また、春山先生は学校から「主人公の責任者」のような対応を求められている立場であり、それゆえ二年に上がっても担任になるのは必然でした。加えて、ピアノのある空き教室の管理を任されています。  普段は空き教室の鍵を締めていますが、ときおり空気の入れ換えを行っています。長期の休みに入った最終話時点では、糸杉の好物(おしるこ)をお供えもしています。  使われることもないだろう、とピアノの屋根を持ち上げたのも、春山先生です。空き教室の管理者として、彼女にも思うところがあったゆえの行動です。 〈ハーベストのおじさん〉  生前の糸杉とも面識があり、常連だったために主人公の幻覚について理解しています。糸杉が好んでいたものを追加で注文する主人公に辟易するも、合わせています。  「オムライスはお上さんに嫌な顔をされる」という発言をしていましたが、これは「オムライスは作るのに手間がかかる」という意味ではなく「またあいつ一人のために余分に作らなければならないのか」という意味になります。主人公はとうぜん間違った解釈をしています。 Q:「ソルフェージュ」と「ソルフェジオ」の意味  ソルフェジオ音階、もしくはソルフェジオ周波数は、作中でも語られた通りです。よくヒーリングミュージックなどに含まれる音です。心身に影響を与える周波数からなる音階がソルフェジオ音階であり、作中では、最終日に流れたピアノにあらわれています。  糸杉が教えたソルフェジオの知識は、彼女こそが空き教室から流れるピアノ――主人公のトラウマや負の感情を取り除く旋律――の演奏者である、という暗喩でもありました。  対してソルフェージュは、ソルフェジオの語源にもなった単語です(らしい)。意味としては「音階」、もしくは楽譜の読み方をはじめとした基礎訓練のことを言います。  タイトルにある『ソルフェージュの無人教室』。  それは即ち、主人公だけに与えられたレッスン教室を意味します。  幼馴染みである糸杉の死。それによっていつまでも人生を踏み出せない主人公、瀬川。彼がまた前を向くために、糸杉の幽霊がひらいた特別な一瞬。ほんのわずかな時間に詰め込まれた、最初で最後の、音に乗せたレクチャー。  無人の空き教室で、背中を押してくれるメッセージを聴く。死んだ彼女が生きているフリをするのはやめた。受け入れて、ようやく心から別れを告げる。それがこの短編の主旨です。  以上が大まかな補足になります。世界観を踏まえて読み返すと分かりやすいかもしれません。  また、なにか疑問点などがあれば感想等で遠慮なく。  初心者による初めての短編でもあるこの作品が、読者の貴重な時間を彩ることを願っています。〈九日晴一〉
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