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「ここは謁見の間でも、晩餐の席でもない。ただ旧知の友と過ごしているだけだ」
しかし、その言葉に甘えるわけにはいかない。
アウロラは目を伏せ、首を横に振る。
「でしたらなおさら、積もるお話も有りましょう。お邪魔にならないうちに、失礼させていただきたく……」
しばしの沈黙。
けれど、何かを思いついたのだろうか、ややあってベヌスはぽんと手を打った。
「そこまで言うのなら無理強いするのも酷だが、吾の顔も立ててはくれまいか? 」
突然のことに、アウロラはこっくりと首をかしげる。
一つ咳払いをすると、ベヌスはためらいがちに切り出した。
「そなたの声を、聞かせて欲しい。その……中庭で歌っていたではないか? あの歌を……」
突然のことに、アウロラは自らの顔が上気していくのを感じた。
やんごとない人々にこのような醜態を見せるわけにはいかない。
慌ててアウロラは床に手を付き、頭を下げた。
「お恥ずかしいところをお見せして、何とお詫びして良いか……。所詮卑しき巫女の戯れですので、お耳汚しになるだけかと……何卒、ご容赦を」
一刻も早くこの場から逃げ出したい、その一心だった。
しかしそんなアウロラの耳に、ベヌスの生真面目な声が入ってきた。
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