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「そなたは決して卑しくはない。なぜそこまで自らを貶める? 瞳の色など気に病むに値しないことは、もうわかっただろう? 」
その言葉は、ベヌスの本心であることは明らかだった。
心から自分の事を思ってくれていることが、アウロラには痛いほど伝わってきた。
けれど……。
「生き方を変えるのは、難しゅうございます」
言ってしまってから、アウロラは後悔した。
恐らくベヌスだけではなく、客人も怒らせてしまっただろう。
頭を垂れたまま、怒声が飛んでくるのを待つ。
けれど沈黙を破ったのは、いささか間の抜けた声だった。
「巫女殿は、美声なのか? 」
ハッとして、アウロラは顔を上げる。
その視線の先には、照れ笑いを浮かべる大主の弟カイ・ベルグの姿があった。
しばし、アウロラはその顔を見つめていたが、慌てて返答する。
「そう言う訳では……。ただ、己の思うままを旋律に乗せて歌うのみにございます」
そうか、とうなずくと、カイは人好きのする笑顔を向けてくる。
「実は、恥ずかしながら最近月琴をかじりはじめたのだが、一人で爪弾いているだけではちっとも面白くない。ついては巫女殿の伴奏をさせてはいただけないか? 」
思いよらぬ言葉に、アウロラは慌てて首を左右に振る。
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