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「おとなに、なったなぁ」
ほんと、おとなになったな。
彼女たちのように姿を変えないものを見ると、特にそう思う。自分とは流れる時間が違うものたち。
去年もその前も同じものを見ているはずなのに、自分が変わっている。目線が高くなったり、考え方が変わったり。できることが増えたり減ったり。
自分で好みが爺臭くなったな、って思う瞬間ってさ。おとなになったなって思う瞬間とは別の寂しさがあるんだよ。
ずっと先を歩いていたはずの父さんが好きだったものを、自分が好きになる。子どもだった頃に好きだったものたちを置いてさ。
なんか、こう。父さんに追い付く。祖父さんに追い付く。追い越していくんだな。追い抜いて、終わりに近づいていくんだなって。
振り返ったらさ。子どもの自分が置き去りにされているわけよ。おとなになった自分を見て。
どう、思うのかな。
置き去りにされて寂しい。どうして置いていくの? 一人で淋しい。一緒に連れていって。
おとなになる自分に対して、そう思うことがあるんだ。
死ぬまで時間はどれくらい残されているんだろう。あと、どれくらい残っているんだろう。
焦っているんだ。
あんなに無敵だと思っていた子どもがあっという間におとなになって。その先は?
これから、俺はどこを行けばいいんだ?
俺は、ぼんやりと空を見上げた。
「おとなに、なっちまったなぁ」
変わらない空だけが、今日も広がっていた。
暑い。
季節の四姉妹について聞いたのはいつのことだったかな。
誰から、聞いたんだっけ。
もう、思い出せないや。
『廻る4つの季節』
世界を廻る4つのヴェール
四人の少女の姿をもって
くるくる華麗に舞い躍る
春のヴェールは幼い桃色
夏のヴェールは茂る深緑
秋のヴェールは 燃える緋色
冬のヴェールは積もる白
大地を覆って健気に彩る
大地を廻って微笑みかける
時の移ろい知らせる少女は
祝福与える4姉妹
春の桃色ヴェールは
曙(あけぼの)時にたなびくものが一層美しい
ふわり、ふわりと花びら纏い
夜明けの空に
散っていく
追って若草
芽を出し始め
大地をうららかに染めていく
ゆぅらりゆらり
眠気を誘う
おっとりゆったりマイペース
だけど目覚めを教えてくれる
そんな彼女は
春色ヴェールの女の子
夏の深緑ヴェールは
昼の翠と夜の紺が交互にたなびく
光と闇が練り込まれた繊細さ
ひらり、ひらりとひるがえり
緑が踊る
葉が踊る
高き青空に負けないよう
大地を涼やかに染めていく
シャンシャンしゃらり
拍子を刻む
あつい心は負け知らず
すっきりさっぱり強気な彼女は
夏色ヴェールの女の子
秋の緋色ヴェールは
夕暮れを切り取った
どこか寂しい郷愁が流れる
ぱさり、ぱさりと地面を叩く
朱と黄の絨毯
大きく広がる
空も大地も同じあか
あおを落としてあかく染まる
カランカランと靴音鳴らし
動きも言葉もしなやかに
乙女の秘密はルージュから
恋する華恋な彼女は
秋色ヴェールの女の子
冬の白色ヴェールは
つとめて早く朝を見る
知る人ぞ知る神秘の景色
キシキシ凍てつきまた融ける
光を綴じ込め眠りにつかす
子守唄さえ銀(しろがね)に
積もり積もれと重ねてく
さらりさらりと流される
冷たい微笑は誰より鋭いはずなのに
ほんとは弱気なおっちょこちょい
そんな彼女は
冬色ヴェールの女の子
世界を廻る4つのヴェール
クスクス笑い世界を染めて
くるくる優雅に舞い躍る
春のヴェールは幼い桃色
夏のヴェールは茂る深緑
秋のヴェールは 燃える緋色
冬のヴェールは積もる白
時の移ろい祝福している少女らは
笑顔与える4姉妹
今日はどの子とお喋りしよう
明日はどの子とお喋りしよう
そう自分に語って笑ったあの人は、誰だったっけ。
もう、思い出せないや。
変わらない空だけが、今日もただ広がっていた。
暑いな。
ほんと、つまらないおとなになっちまったな。
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