プロローグは主人公たち

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☆アルバイト募集中☆(チラシの表) ひまつぶし系お菓子屋「寄り道」を毎度ご利用いただきありがとうございます。 当店では、材料が足りなくなることがしばしばあります。そのため、随時アルバイトを募集させていただいております。 以下の条件に当てはまった方はお手伝いをぜひ! お願いします。 ①暇な暇人 種族、年齢は問いません。 暇なことが重要です。 ②店主の言語が理解できる 意思疎通が困難な場合、絵文字での説明も考えております。 ③方向音痴ではない 行方不明になられても何処にいるのかわからなければ助けに行けません。ただし、迷子札をお持ちの方は除外されます。 ④材料がわかる 一通り説明をさせていただきますが、希少なものもあります。ご自身の力量に応じたお手伝いをお願いします。 ⑤主な受付材料とごほうび ・赤足ニンジン(一本につきドリンク一杯半額、俊足なら無料) ・ 森のハーブ(どの森でもいいが生で納品すること、同重量の小袋焼き菓子と交換) ・常夏マンゴー(甘熟大歓迎! 一個につきバナナケーキ一切れ) ・竜のひげ(十センチ以上のものに限る、一頭から長く切りすぎると怒ります、一本につき探検セットレンタル一回無料) ・むつのはな(溶けやすいので冷凍ポーチ支給、百個でスノウサイダー年間フリーパス発行!) などなど 今後もご利用お待ちしております! お問い合わせは店主・エヴァンへ 俺は丁寧に折り畳まれたチラシを庭師に渡された。そうか、店主はこんなことまで始めたのか。 いくつかの内容は俺にもできそうだった。今度詳しいことを聞いてみよう。 「この手伝いに行くのか」 「むつのはな」の項目を片手で指差して、もう片手はサンドウィッチを掴みながら俺は言った。しかし庭師は、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべてチラシの裏を見ろと促した。 裏? 裏には、表と同じような内容が書かれていた。裏の内容ではあったけど。 ☆アルバイト募集中☆(チラシの裏) 毎度ご利用いただきありがとうございます。 ひまつぶし系お菓子屋「寄り道」では、表以外の随時アルバイトも募集させていただいております。 以下の条件に当てはまった方はお手伝いをぜひ! お願いします。 ①腕に自信のある方 特にこちらからはアシスト致しません。ヘルプもありませんので、ご自分で思う存分動いてくださって構いません。 ②信頼できる方 身元確認のできる方だけとさせていただいております。後日、クレームなどの連絡は致しませんのでご安心ください。 ③命の保証はしておりません 事後における後遺症、トラウマ、命の損害については一切保証しかねます。命の保証はしません。 ④確保材料は以下のものとなります ・借金を踏み倒した不届きもの ・迷惑行為を繰り返した不届きもの ・ルール違反の常習犯 ・商品、及びレシピを無断で盗んだ極悪人 ・店主・エヴァンの名を語った成り済まし などなど 確保材料の位置を特定した後、お手伝いを正式にお願いすることとなります。お時間の都合のつく方が望ましいため、事前にご連絡をさせていただきます。 皆様、確保材料にならないよう健全に当店をご利用ください。 ひまつぶし系お菓子屋「寄り道」 店主・エヴァン そんなことがチラシの裏には書かれていた。 そういえば親友の一人であるエドワード、彼は宝石の加工前である原石を扱う仕事をしている、彼がいつだったか採石場にいたはずの盗賊が根こそぎいなくなったと不思議がっていたことがあった。 そういえば親友のもう一人であるブーケ、彼女は特殊なハーブから薬を作っている、彼女がいつだったかハーブ畑を踏み荒らした子供たちが急に揃って謝りに来たと言っていたことがあった。 そのチラシの裏を見て、俺は察した。こうやって悪人たちはこらしめられていたんだな。 罰を与えるのは警察や裁判所ではなくてこういった身近な人たちなんだ。 例えば、スリをしている人の真後ろに立ってすごい顔で睨んでいる物言わぬ狩人とか。「お前の今盗もうとしている物は、愛しの愛犬がずっと楽しみにしていた今日限定のスペシャルジャーキーなんだぞ」みたいな。 いや、狩人さんより先に足下にいるおおかみ少女の方が噛みつきそうだ。 とにかく。腰を重たくしてなかなかイスの上から立ち上がろうとしない人たちよりも、すぐ近くにいる正義感溢れるどっかの誰かさんたちの方が悪者にげんこつを食らわしてくれる。 誰もしないときは、そうだな。俺が相棒の槍でビビらせてやってもいいかもな。いや、しないといけない。 もう、俺もおとなになったんだから。 そもそも。俺と庭師がこんな話を始めたのは、どうして今日ここに来たのかという疑問からだった。 庭師はチラシの表を見て。六花がある場所について心当たりがあったそうだ。 普段から利用している一階にある店、お菓子屋「寄り道」のスノウサイダーは夏になると特に重宝される。今日みたいな暑い日には売り切れになることだってあるんだ。だから、店主のエヴァンに恩を売っておいて自分用のビンをいくつか確保しておく。 そういうやり取りが必要ってわけ。 そして、チラシの裏。そこに書かれていたのは悪者をこらしめてくださいという依頼だった。 チラリと庭師の顔を見る。どう見ても、そこにいる庭師の方が純粋なワルモノの顔をしている。罪を犯して悪いことをするんじゃなくて、悪いことを楽しむ顔。 吸血鬼お嬢様も、似たような顔をしていた。イタズラを楽しむ顔。 こんな奴らに追われるなら、警察に追われた方がマシな終わり方ができるな。 俺はこれから狩られるだろう悪者たちに同情した。
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