サウスヴェール国立大学 学生食堂にて

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「……似合わない、って書いてあるぞ。顔に」  パスタを口に運びかけたままの格好で動きを止めるケイクの、丸くなった眼に半眼を投げかける。 「似合わないだろ。いや、騎士団の待遇がいいのは分かるけど」 「清々しいほど率直な物言いだな。逆に、どんな就職先を想像してたんだ」 「そう言われると……あぁ、そうか、多分、お前がなにか決まった職に就く、っていうのがそもそも想像しづらいんだろうな。随分長い時間、一緒に学生してたから」  言い訳ではなく、本当にそう思っているのだろう。  実家同士が近かったケイクとは、初等部以前からの付き合いになる。いわゆる幼なじみという関係になるのだろう。子供の頃みたいに四六時中一緒にいる訳ではないが、互いの存在は常に近い距離にあった。  自分がオムライスを口に運ぶと、ケイクもパスタを巻き直して食事を再開し始めた。 「でも、なんかもったいないな。せっかく生物学部卒って肩書きが付くのに」 「もう十分だよ。満足した。研究法も実験観察も小論文ももうお腹いっぱいだ。それに、自由騎士は仕事で各地に派遣されるからな。生態系調査であちこちを飛び回った経験自体は無駄にはならないさ」  就職面接の時に使ったこじつけをもう一度吐き出しながら、オムライスを載せたスプーンで皿の底のホワイトソースを掬い取る。好きで食べ続けている学食メニューだが、さすがに四年目ともなると飽きも来ていた。良くも悪くも変わらない味を、淡々と消化する。
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