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クレメル
メルカトルには悩みがあった。親友のクレメルの事だ。
「いいかメルカトル。恐れて何も出来ないでいるは奴は少なからずいる、勇敢にするべきことを見つけた奴もたくさんいる、でも一番重要なのはそれをする順番だ。色々な事を分かっていても順番を間違えたら意味がないぞ」
クレメルはそう言うと小さく咳をした。
人里離れた森の奥、小さな家にクレメルは一人で暮らしていた。メルカトルはクレメルと話をする事が楽しみだった。森へ遊びに来る度に町での出来事や、不思議だと思った事を話したり訊ねたりしていた。クレメルはメルカトルが知らない事を何だって知っていた。
「クレメルも順番を間違えた事があるの?」
「そりゃあるさ、取り返しのつかない失敗をいくつもしてきたよ。こんな姿になってしまったのもそのせいかもしれない。メルカトルには俺みたいになって欲しくないんだよ」
「クレメルはいい奴で、色々な事を僕に教えてくれるのに、皆は病気がうつるからあいつには近づくなと言うんだ」
「それはしょうがないさ、初めて俺を見る奴はどいつもギョッとする。悲鳴を上げて逃げ出した奴もいたよ」
クレメルは病気なのだ。彼の全身は真っ黒に変色してしまっている。
それは初め、小さな”シミ”だった。その“シミ”はあっという間に体中に広がって、クレメルは動けなくなってしまった。人々は彼を嫌厭し町から追い出した。メルカトルだけが彼を恐れなかった。
「どうしてゲルハトに看てもらわないの?」
「俺は医者が嫌いなんだよ。それにこれは治らない、もうすぐ俺は死んでしまうだろう」
「クレメル、その病気の名前はなんていうの? 僕が調べて薬を持ってくるよ」
「こいつの名前か。このシミはな……」
クレメルは病気の名前を“カナシミ”だと教えてくれた。
メルカトルは歩き出した。“カナシミ”を消す薬を探してクレメルに渡すのだ。
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