笑顔

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笑顔

 岬から見える今日の海もいつもと同じように穏やかだ。綿みたいな雲が太陽を隠して、メルカトルとカコ婆さんは大きな影に包まれる。 「そうかい、友達は助からなかったのかい」 「うん」 「残念だったねぇ、あたしがもっとよく覚えていればねぇ」  ゆっくりと雲が動いて、太陽がまた顔を出す。 「カコさん。僕にも見えたよ」 「そうかいそうかい、やっと見えたかい。いいもんだろう笑顔は」 「そうだね。ちょっと悲しいけどね」  クレメルがいなくなって、メルカトルの身体には小さな“シミ”ができた。 皆はクレメルの病気がうつったんだと言ったけど、そうじゃない。  メルカトルはちゃんと知っている。  こいつは笑っていれば消えちまうんだ。  
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