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「で、どうなのよ。MD」
奈麻が最後の香味唐揚げを飲み込むと、木羽くんに話を振った。……私も次は香味唐揚げを頼もうと思った。
「木羽くん、MDになったんだ! おめでとう!」
「うん。まだアシスタントからね」
口を挟んじゃったのに、にっこり笑ってくれた。
「ごめん、話そうとしてたの遮っちゃった」
「え、いいよ。嬉しい、ありがとう」
あ、これはヤバい。隣より正面の席の方が、真正面からこの笑顔を受け取ることになる。(当たり前だ)
優しい笑顔だなぁ。普段はどちらかと言うと美人系の顔立ちだけど、笑うと、可愛いって言ったら失礼かな?他意のない純粋な笑顔だった。
あまり見られなくて、つい碓井くんの方へ逃げた。
「ラス1、食べていいよ」
「何だよ、全然食ってないじゃん。ダイエット? 」
「まさか」
「だよな」
胸が、いっぱいで。
──
一通り仕事の話が終わり(碓井くんと奈麻も結構喋ってて、一安心)、木羽くんに笑顔を向けられたタイミングでつい言ってしまった。
「木羽くんって、モテそう。あ、彼女いるんだっけ?」
「はは、どうかな。彼女はいないけど」
ちょっと白々しかったかな?一瞬、木羽くんの目は笑ってなかった気がする。聞くんじゃなかった。そう小さな後悔をしていると
「今はいらないんだ?」
と、奈麻が続けてくれて気持ちが楽になった。
「そんなことないけど、俺は自分から好きになりたいからなあ」
木羽くんが、私の方を見てにこりと笑った。
「あー、色々厳しそう」
奈麻がそう言うと
「あはは、そんなことないって」
奈麻の方に向き直って笑った。私に向けたものと、奈麻に向けたものは、違う笑顔だった。
私に向けた笑顔は純粋なものじゃなくなっていた。明らかに作った、そんな笑顔だった。
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