彼の視線、私の視線

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「も……森本さん!」  教室に戻る途中、声をかけられた。振り向くと、そこにいたのは山下くん。 「山下くん?」  山下くんは、ニキビなんか1つもない顔を真っ赤にさせて、意を決したような顔をして口を開いた。 「あの……森本さんに、話があって……」  視線を彷徨わせながら、言葉を紡ぐ。  話って何? まさか、本当にあきちゃんが言うように……  勘違いするな! て気持ちと、もしかして……と思う気持ちで、頭がぐるぐるする。 「放課後、1人で教室に残ってください! お願いします!」  山下くんは、がばりと頭を下げると、踵を返して走って行った。  呆然と山下くんを見送っていると、向こうから、宮嶋くんが悠然と歩いて来るのが見えた。  2人がすれ違う。山下くんは宮嶋くんよりずっと背が低い。宮嶋くんは、どれだけ人がいてもすぐに分かるけど、山下くんは、すぐ他の人に紛れてしまいそうになる。だけど、私は山下くんを見失っていない。他の人に紛れない背中を目で追い続け、その背中から目が離せなくなっていた。  どきんどきんと胸が鳴る。顔がすごく熱い。  宮嶋くんが私の横を通り過ぎる時、初めて私に目を向けた。だけど宮嶋くんの視線には、もう何も感じない。
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