彼の視線、私の視線

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 入学から1ヶ月が過ぎたある日のホームルーム。後ろの席にプリントを渡すために振り向いて、宮嶋くんと目が合った。  すぐに目をそらされたけど、廊下側に座る私の方をじっと見ていた彼と、一瞬だけ目が合った。  もしかして、私を見てた?  一瞬だけよぎった考えを、ため息と共に否定する。  私みたいな地味子、彼が見ている訳がない。  そう思って、そんなことはすぐに忘れてその日は終わった。  翌日。また、宮嶋くんと目が合った。さらにその翌日も。その後も何回も。プリントを後に渡す時や、何気なく後ろを振り返った時。チラリと宮嶋くんの方を見ると、宮嶋くんも私の方を見ていた。彼は私の視線に気付くと、見ていたことをごまかすように、目をそらす。  私を見ていた訳じゃないと思う。そう思うけど、宮嶋くんが私の方を見ていたのは、間違いなかった。  あんなカッコいい人の視界に、私なんかが入ってた。  そう意識した途端、急に自分の容姿が恥ずかしくなった。  いくつもアホ毛が浮いたまとめただけの髪、少しカサついた唇、手入れをしたことのない凛々しいほどに太い眉毛。最近頬に増えたニキビ。しかも、宮嶋くんの席から見える左側には、特に大きく目立つのが1つ。  多少のニキビは、誰にでもある。私より、もっとひどい子もいる。今、ちょっと荒れているだけで、そのうちに治る。そんなふうに思っていた自分に、無性に腹が立った。  だってカッコいい宮嶋くんには、小さなニキビ1つ無さそうなんだもの。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加