彼の視線、私の視線

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 ほんの少しきれいになりたい。そんな思いで小さな努力を始めた1ヶ月後。席替えをして、私は彼の隣になった。  ドキドキしながら座って、機会を待つ。彼が私の方を向いたら、もし彼と目が合ったら、勇気を出して話しかけてみよう。「私のこと見てた?」なんて、自意識過剰なことは聞かない。だけど、つまんない授業の話や先生の話、バレー部だっていう彼の部活の話も聞いてみたい。そんなことを思ってドキドキしながら、彼がこっちを向くのをずっと待った。  だけどその日、彼は1度も私の方を見なかった。  彼の目は、前の黒板と廊下側の席にしか向かない。授業が終わると、どこかに行ってしまう。何を、誰を、見ているのかは分からない。  だけど、初めから私を見ていなかったことは、はっきりと分かった。
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