彼の視線、私の視線

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 この気持ちは、恋なんかじゃない。  ライブ会場で、アイドルが自分を見たと勘違いしたのと同じ。恥ずかしい勘違い。だからこの気持ちも、アイドルに対するときめきと同じで、決して恋なんかじゃない。 「じゃあ、気になる人とかは? それもいないの?」  私が使っている化粧品や、教えてもらったスキンケアの方法をゆいちゃんに教えているのに、なぜかあきちゃんは、未だに恋の話にしようとする。 「いないよ。まあ、強いて言うなら……」  私は十分なタメを作り、渾身のどや顔を作って言った。 「恋をするためにキレイになった、かな?」  折角使い始めた化粧品も、ヘアワックスもリップクリームも使い続けてる。眉を整えるのも忘れない。  そうだ。私は自分のためにキレイになったんだ。かつての恥ずかしい勘違いを誤魔化すように、自分で自分を鼓舞するように胸を張る。 「本当に?」  あきちゃんの様子が、ちょっとおかしい。ここまでしつこく聞いてくるなんて、あきちゃんらしくない。 「やけに突っ込んでくるね?」  少し顔をしかめて尋ねる。あきちゃんが、何か企んでるような気がしたから。 「だってさぁ……」  あきちゃんが机に身を乗り出し、小さく手招きする。私とゆいちゃんは顔を寄せ、小さくなったあきちゃんの声に耳を澄ます。 「さっきからリナの後ろの男子、リナのことチラチラ見て、めっちゃあたしらの話、聞いてるんだけど?」  私はびっくりして、勢いよく振り返る。そこには、数人の男子が集まって騒いでいた。その中の1人、席替え前に隣の席だった山下くんと目が合った。  合ったと思った目はすぐに逸らされ、山下くんは、慌てて教室を出て行った。  聞いていた? 山下くんが?  騒がしい教室内。それぞれのグループで話してる内容は自然と耳に入るけど、聞き耳を立ててまで聞こうとする?
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