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同じフロアだけど部署が違う中さんとは、あまり接点がない。冷静沈着、きちんとした大人、という印象。近寄りがたくはないのだけれど、人懐っこくはなく、どこかみんなと一線を引いている気がする。長いまつげと、高い鼻、綺麗な形の唇をお持ちなのに、あまり表情を変えず、言葉も短め。そういえば、話すときは敬語だった気もする。
あれ?もしかして中さんじゃない?
いやいや、さっき名前呼んだよね。
あ、じゃ、中さん違い?
いやいや、他に中さんっていう知り合いいないよね。
などと考えているうちに、駅前広場を囲む植え込みの幅広いヘリに座らされ、中さんも隣に座る。
真ん中がすっぽりと白く抜けた視界で、駅前を行き交う人を眺めながら
「ここ、植え込みのヘリなのか、座っていい場所なのか、ずっと疑問に思ってました。」
とボンヤリ呟くと、中さんがクスリと笑う。
「座りたければ座ればいいじゃない。」
「気が小さいもので。分かりやすく『座っていい場所!』ってしといてくれないと、座れないんです。」
「お座りデビュー?」
「ですね。」
「おめでとう。」
クスクス笑う声が聞こえ、中さんの方に顔を向けるけれど、やっぱり表情が見えない。貴重な中さんの笑顔をなんとかして見たい、と上半身と首を動かして、色々な角度から眺めるけれど、抜けた視野が大きすぎて、どうしても見えない。
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