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陽光は、柊の言葉をまるっきり鵜吞みにしない。
自分たちが悪目立ちをしたくないからといって、わざわざ級友に服を貸すだろうか?
そもそも、最初から一緒に出掛けなければいいだけの話だ。
あだ名だって、本当にどうでもいい奴にはけしてつけたりしない。
『柊』から木偏を取って『冬』
罪がない、無邪気なニックネームだと陽光は微笑ましくすら思ったものだ。
斯く言う陽光は小中高校時代は大抵、名字そのままの『五嶋』と呼ばれていた。
下の名前で呼ぶのは家族と、柊を含む岸間家の人びとくらいなものだった。
全く――、柊は本当に素直じゃない。
可愛げがないところが又、可愛いくてかわいくて堪らない・・・・・・
高校時代ではなく、今の柊が陽光を見てくる。
当たり前だが、陽光が考えていることは分からない。
「無理に褒めなくてもいい」
「は?」
絶句する陽光へと、柊は実に一方的に告げる。
「おまえも見慣れてないから気になるだろう?今から着替えてくる。10分――、いや5分だけ待ってくれ」
「・・・・・・」
柊は陽光と初めて迎えた朝に二度寝をし、ついうっかりと寝過ごしてしまった時とまるっきり同じ頼み事をしてきた。
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