行くも帰るも別れては

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行くも帰るも別れては

 結局、陽光は柊が乗り込む駅のホームまで一緒に来たがった。 「――いいのか?入場料がかかるぞ?」 と140円をケチる、もとい惜しむ発言をする柊に陽光は、 「構わない」 と、実にあっさりと端的に述べた。 「・・・・・・」 そう、陽光に言われしまえばもう仕方ない。 ――柊は従うしか他になかった。 「分かった。でも、土産を買いたい」  柊は駅に併設している商業施設内で菓子折りを買った。 それもかなりの量、箱数を。 「そ、それは――?」  問う陽光に柊は極めて自然に答える。 「あぁ、ついこの間おまえが寄越して来ただろう?母が大層気に入ってな」 「・・・・・・」  柊の言い様は時代がかっているのは何時ものこと、当たり前だった。 だから陽光の絶句はそのせいでは、けしてない。 ない、はずだった。  陽光が最近地元へと帰り、至極当然柊の元を訪れた際に手渡した土産がこの『ひよこ饅頭』だった。 会社の先輩に参考意見(アドバイス)をも請い、買い求めた銘菓、――逸品だった。  柊の母こと、リカ子がそれほどまでに気に入ってくれていたとは、陽光は想像もしていなかった。 その息子の柊にこれほどまでに感謝されるとも、又思ってもいなかった。 うれしい反面、何ともどうして照れくさい――。
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