行くも帰るも別れては

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 ことさらに真顔を、ほとんど渋面を作り陽光は柊へと両手を差し伸べる。 「貸せ」 「え・・・・・・?特に重くないから大丈夫だ。ただ、かさばっているだけだ」  確かに柊の両手はそれぞれ塞がっていた。 右手で小型のキャリーバッグを引き、左手に紙袋を二個ぶら下げていた。  柊も又、陽光に噓を吐かない。 だからその通りなのだろう。 陽光を見る顔は何時もと変わらずに涼やかだ。 静かに凪いている。  しかし、陽光は続ける。 「いいから寄越せ」 陽光としても、一度伸ばした手を空のままで引っ込めるわけにはいかない。 文字通り、『引っ込みがつかない』状態なのだろう。  柊はそう察して左手を上げ、陽光へと紙袋を示した。 「じゃあ、頼む」 柊が答えるや否や、陽光がそれらをかっさらった。 「えっ?」  まるでひったくる様な、柊に少しも有無を言わせない程に強い力の手だった。 陽光は至極当然の様に二つとも持った・・・・・・ 「――ありがとう」  正真正銘本物のひったくりに遭遇したのならばけして述べない言葉を、礼を柊は素直に口にした。 しかも手放しの、掛け値なしの笑顔を浮かべてだ。
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