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しかし、ふと違う可能性も思い付いた。
「あ・・・・・・もしかして、ひよこ饅頭がか?」
と、極めて小さな声でこぼした。
そうに違いないと、陽光は独りで勝手に納得しうなずく。
いくら信頼がおける先輩のオススメだとはいえ、随分と可愛いらしい形の饅頭だな。と思ったものだ。
ちなみに、ついでに実家にも全く同じものを持って帰った。
母の加代子に渡した際に礼らしいことを言われた気がしたが、父の照夫に関してはまるっきり無関心だった。
まぁ、菓子なのだから食べたのだろうと、陽光も又あっさりと流した。
様ざまな考えを巡らせているからだろう。
黙り込む陽光を、柊はやはり黙って思う存分に眺めていた。
むっすりと口を引き結んでうつむき加減になると、途端に陽光は近付き難くなる。
しかし、子供の頃から唯の一度も『怖い』とは思ったことはなかった。
陽光は柊が知る他の誰よりも『優しい』男だった・・・・・・
柊の視線にようやく気が付いた陽光が柊を見る。
さすがにもう大爆笑はしていない。
その口の端が実に意味ありげに持ち上がって見えるのは、ただの陽光の気のせいだろうか?
――左に在るほくろが何時もよりもくっきりはっきりとしていた。
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