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柊が、その薄めの唇を閃かせた。
「両方だ」
「⁉」
思いがけず応えられて陽光は驚く。
柊は陽光のつぶやきをちゃんと拾った様だった。
「ひよこ饅頭はもちろんだが、それを買ったおまえも可愛らしい」
そう、少しも言い淀むことなく滑らかに語られる。
柊に軽やか且つ容赦なくダメ押しをされ、――とどめを刺されて陽光は再び沈黙へと逃げ込んだ。
こんな事態を予想出来ていたのならば、銘菓は銘菓でも造形が極めて|簡素なものを買い求めていたことだろう。
陽光は知る由もない、『お菓子のホームラン王』と称されている軽い食感の欧風焼き菓子や飴で固めた一口大のおこしとかを――。
陽光が無言だったのはほんの一瞬、束の間だった。
不意に柊へと言い放ってみせた。
「早くしろよ。時間がない」
今、この間合いでそれを言うのか⁉と、柊は思わず陽光へと聞き返そうとしてしまった。
つい先ほどシャワーを浴びる際に、他ならない自分が陽光を急かして浴びせかけた言葉そのままだ・・・・・・
寸でのところで気が付いて、それを飲み込む。
確かに、陽光が言う通りだと思った。
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