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今年の初め、正月過ぎに陽光は柊の依頼で花火を打ち上げた。
その後で『銀柊荘』にて催された慰労会に、最初からリカ子の席はなかった。
真っ先に主賓である陽光へと挨拶とお酌をして、早々に引っ込んでしまった。
約一年半振りに目の当たりにするリカ子の容色に、少なくとも陽光は少しも衰えを見出せなかった。
ハクモクレンの花を思わせる清楚さと大らかさと、――そして、散り際の儚さまでを併せ持っていた。
相も変わらずの美貌だった。
柊はやはり母親似だと、陽光は改めて感じ入った。
昔からリカ子は蒲柳の質、そう、病弱だった。
柊を無事に産み落とせたのも『奇跡』だと、岸間家ではことさらに隠すことなく語られているくらいだ。
――その産み落とされた息子である柊が、リカ子を労り慕うのは至極当然のことの様に陽光には思えた。
陽光に自身の土産の有無を問われて、柊は母親譲りの顔をほころばせた。
まるでささやくかの様にひっそりと、柔らかく白状する。
「おれの土産は、おまえからもう十分に貰った」
「・・・・・・」
柊が何を言わんとしているかを瞬時に察して、陽光は黙った。
それは文字通り、聞きかじったことがある『走馬灯』だった。
柊と過ごした昨日からの一連の出来事が、陽光の頭の中をぐるぐると巡り廻った。
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