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確かに気障な仕種だったが、柊がすると不思議と様になった。
――柊自身にはそんな気は全くないのだが。
柊は下ろした拍子に、改めてじっくりと見つめてみる。
陽光が「覚えておきたい」と熱く言い募り、求めてきた自分の『手』を。
文字通り日びの『手入れ』には気を遣い、配っていた。
それでも元より、生来より男の手だ。
けして華奢とは言えないし、又柊自らもそう思えなかった。
その手を、そんな自分の手を陽光は心の底から欲して愛してくれた――。
思い返すと欲情ではなく感動で、体が熱くなるのが分かる。
途端に潤む目を慌てて、左手から窓の外へと逃がす。
しかし止まることなく流れ行く景色は、まるっきり柊の目には飛び込んでこなかった。
窓ガラスにはけして映らない陽光の面影をただ、思い浮かべるだけだ。
柊が苦笑する。
「全く・・・・・・あいつは」
もちろん柊は、つい一時間前に全く同じ独白を陽光がつぶやいていたことは知らない。
知る由もない。
キュッと、左手を握りしめる。
手のひらに在った何か、――それも大事な大切なものを包み込むかの様だった。
限りなく柔らかく、優しい手付きだった。
手元に釣られてなのか、柊の苦かった口調までもが甘やかに変化する。
「いっぱい土産を寄越したものだな」
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