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それが柊へのスイッチになったようだ。
体ごと振り返り、不本意ながらも心持ち背伸びをした。
柊は、両の手のひらで陽光の後ろ頭を抱え込む。
その拍子に左腕に引っかけられていたコートが滑り落ちた。
床に接して派手な音を立てる。
柊には陽光から逃げ出そうとする気などさらさらなかった。
陽光の不意の口付けを拒むどころか進んで応じ、――それ以上のを返した。
陽光は、かっちりとした三つ揃いに護られた柊の体を強くつよく抱きしめる。
思っていた通り何時もよりもしっかりと、自身の腕へと胸へと感じられた。
陽光のきつい腕の鎖の中で柊がほんのわずかに身じろぎをした。
そのささやかな動きさえも、陽光にはほぼ直に伝わる。
「柊・・・・・・」
陽光の縛めが緩んだ隙に柊は体を翻し、ものの見事に縄抜けを遂げた。
柊が部屋の中へと歩を進めて行く。
その足取りはけして、『覚束ない』わけではない。
しかし、ユラユラと揺れている様に陽光には見える。
――軽やかな足踏みそのままだった。
柊が手前の、ドア側のベッドの縁へと腰を下ろした。
エレベーターが上昇する時の動きと同じく、セミダブルサイズのベッドは音一つ立てずに揺れもほとんどしなかった。
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