閨の暇さえつれなかりけり

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 陽光が柊の前へと立つ。 見上げる柊の目には陽光の顔が強張っている様に映る。 一見だけ(ぱっと見)では怒っている様だったが、けしてそうではない。 柊には分かった。  柊が手を差し伸べようとしたその時、不意に陽光の上体が沈んだ。 「え?」  その場へと片膝をついた陽光の指が革靴の紐へとかかる。 細い紐は飴がかった茶色の靴よりもさらに濃く黒に近い色だ。  陽光は半ば解いたところでくつろげ、柊の足先を抜き出した。 柊が穿()いている薄手の黒い靴下の縁から指を差し込み、一息に引きずり下ろす。 左足に続いて、右にも全く同じことを行なう。 「・・・・・・」  確かについさっき、他の誰でもない自分自身が陽光に「脱がして」と言ったばかりだった。 まさか、靴からだとは柊は思いも寄らなかった。  土踏まずへと滑り込んできた陽光の手のひらが柊の足先を支える。 親指の腹でくるぶしの頂を円く撫でられ、思わず脚を引きかけた。 背筋を、下から上へと微弱電流が駆け抜けた。 ――まるで直に骨に触れられた様に感じられた。  柊の足を手放した陽光は立ち上がり、今度こそは柊のジャケットへと手を伸ばす。
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