昼は消えつつ物をこそ想え

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 特段と聞かれてもいないというのに陽光は柊へと一言、断りを入れる。 そうして急いで席を立った。 そんな陽光とはまるで入れ違いの様に、二人の席へと近付いて来る人の姿があった――。  柊の席の横でピタリと立ち止まった。 そうして、何の躊躇(ためら)いもなく真っすぐと話しかけてくる。 「やっぱりひぃか!えらいよく似た和服姿の別嬪(べっぴん)さんがいると思ったら案の定、おまえだったか!」 「コウジさん――、日本に戻っていたんですか?」  柊が座ったままで、その人物を見上げた。 「コウジさん」と、おそらくは名前で呼んだのは男だった。  年の頃は柊たちよりもやや上、――四十路の坂を上り切るあたりだろうか。 卵型の顔は、けして茹でたてを剥いたかの如くとしていなかった。 シワや影がそこらかしこで見受けられた。  もしも本当に四十代だとしても、黒く短い髪の毛には白髪が目立ち過ぎている。 とは言え、よくよく気を付けて切り整えられているらしかった。 少しも見苦しくはなかった。 むしろ、年相応の落ち着きを感じさせる・・・・・・  柊に「コウジさん」と呼ばれた男は極めて自然に、柊の肩へと手を伸ばした。 「戻って来たら最後、出られなくなっていただけだ。まぁ、ちょうど株主総会があったからいいタイミングだったけどな」  
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