昼は消えつつ物をこそ想え

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 陽光は驚きのあまりに見開いた目を柊へと向ける。 『糸の様に細い』とまでは言わないが、けして大きくない陽光の目だ。 ――たかが知れている。 付き合いが長い柊はともかく、全くの初対面の「コウジ」には全く分からなかっただろう。  柊が陽光にではなく「コウジ」へと、 「『立って半畳、寝て一畳』って昔から言うでしょう?」 と、実に涼しい顔をして言い放つ。  「コウジ」は本数が数えられるほどにくっきりと、眉間にシワを浮かべて柊を見た。 ちなみに三本だった。 「ひぃ・・・・・・おまえがそれを言うのか?」  やれやれと、声無き言葉が聞こえてきそうな嘆息振りだった。 男が柊の肩に置いていた手を、頬へと移動(スライド)させる。 「『銀柊荘』の次期当主である、おまえが」 を言ったタイミングで、肉は薄いが滑らかな柊の頬の真ん中を人差し指で突っついた。 「じゃありませんよ」  言い捨てた柊が男の指から逃れる様にして、顔を左へと背ける。 けして、男の間違いに苛立っただけではなかったのだろう。 陽光へと寄越した視線がそう物語っていた。  柊に逃げられた男は気にするどころか、まるで気にも留めていないようだった。
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