昼は消えつつ物をこそ想え

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 柊は一切のを、――躊躇(ためら)いを挟まなかった。 何でもないことのようにサラリと言ってのけた。  一方、引き続きかろうじて顔には出していなかったが、陽光は相当に動揺していた。 柊が何を考えているか以前に先ず、「コウジ」と呼ばれているこの男が一体何者なのか全く分からない。 陽光にしてみれば柊が行なった紹介は爆弾発言を通り越して、先制攻撃だった。 ほとんど暴発の(レベル)に達していたと言っても過ぎない。  対して、柊の紹介を受けた男は『渋面』という言葉そのままのをして、柊を見ていた。 ギリギリまでに細まった目は陽光にではなく、真横に座る柊を真っすぐと映している。  男がに結んでいた口を(ほど)いた。 「ひぃ、おまえ・・・・・・」 「・・・・・・」  四十路も近い今のいままで色恋沙汰には縁遠かった陽光にも、とっさに『修羅場』という言葉が思い浮かぶ。 それ程までに、低いひくい男の声だった。 思わず腰を浮かせて、何時でも席を蹴って立ち上がれる様に備えた。  男を斜め上に見る横顔は、陽光には何時もの柊だった。 陽光へと向けられている口元のほくろは、何の理由(事情)》も語り出しそうにない。 陽光自身が問うまでは、けして――。
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