「フランケンシュタイン」

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しかしフランケンシュタインは、死ななかった。 想像を絶するほどの絶望を抱えて、彼は生きながらえた。 なぜか? 彼にはやるべきことがあった。 絶望という独房の中で、ただ死を待つような闇の中にいたフランケンシュタインだったが、だんだんと理性を取り戻していった。それは同時に復讐の念をも取り戻した。 彼は本文の中でこう述べている。 「僕が世の中に追い放った殺戮者がまだ生きていると思うと、僕の怒りは言語に絶するのだ。奴に復讐することが、僕の魂の渇望、たった一つの情熱なのです」 そうして彼は怪物を追う旅路へと出る。 この放浪は過酷で、辛苦なものだった。 「幾度となく私は、弱り切った手足を砂原に投げ出し、死を求めて祈った。しかし、復讐が私を生かしておいてくれた」 さてここで読者は考える。 怪物はどんな環境下でも生きていけるスーパー人造人間なのだから、見つけることは不可能ではないか、と。 ところが、要所要所で怪物の形跡があり、フランケンシュタインは辿りつくことができた。 また、フランケンシュタインが飢えなどで倒れた時は、荒野の中でありながら、食べ物が置いてあることがあった。 それら全てを彼は「守護天使の導き」と解釈したり、あるいは精霊たちが用意してくれたと感謝した。 が、読者にはそれは全て怪物に仕業だとわかる。 怪物の方もだんだん開き直ってきたのか、それともフランケンシュタインの体力を心配しているのか。 これから北へ向かうから毛皮が必要だとか、もう少し頑張れば兎が置いてあるだの言って、彼を励ましている。 もちろん彼の復讐心を煽ることを忘れない。 「俺の永遠の憎しみが、お前の苦悩を見て満足する旅に入りこむのだから」 などという書き置きを残している。 フランケンシュタインは怪物の言葉に煽られ、それが原動力となって旅を続けた。 そうして二人はついに北極で再会を果たす。 フランケンシュタインのわずか1マイル足らずのところに、怪物が立っていた。が、しかし彼が怪物に迫る前に足元の氷が砕け、流氷の上に取り残されてしまった。 もうおしまいかと諦めかけた時、北極点を目指す冒険家の船が通りがかり、命拾いしたのだった。 しかしフランケンシュタインの体力はもう残っていなかった。彼はほとんど危篤の状態だった。 彼は死ぬ前にたくさんのことを口にするが、最期はやっと死んでいった者たちのところへ行けると、安らかな様子で息を引き取った。 フランケンシュタインが死亡したその夜、船に怪物が現れ、死体の上に屈みこんでいた。 それを見た冒険家は、フランケンシュタインに代わって、怪物を憎んだ。 ここで怪物の独説が行われ、悲劇の連鎖は怪物の自死によって終わることを宣言する。 この物語は、最後の最後まで悲しみと憎しみに包まれていた。 そして、死こそが最後の楽園であり、唯一の救いだと読者に知らしめた。 ただ一つの慰めがあるとすれば、フランケンシュタインに追いかけられていた怪物は、彼の人生の中で唯一、人間と心を通わせた時を過ごしたのだろうと思った。 歪んだ彼らの絆は、悲劇でできたメビウスの輪のごとく、永遠に続くように見えた。 終わり
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