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見てはいけない、そう思いながらも美沙は高梨のスマホを手に取った。高梨を目で探すと声をかけた男子部員と部屋を出て行くところだった。
この部屋では誰かが歌い、数人の部員たちがはしゃいでいたが、誰も美沙へ目を向けているものはいないようだった。美沙が思わず高梨のスマホをタップすると、パスコードがかけられていなかったらしく、LINEはそのまま動作し、メッセージに既読がついてしまった。
こんなことをしてはダメだ、と思いつつも逆に引き返せないと思った美沙はその画面をゆっくりとスクロールした。やはりこれは絢香と高梨とのやりとりだった。
『私はミサと貴方がうまくいけばいいと思ってた』
絢香のメッセージを読んだ瞬間、美沙は自分の胸に何かが刺さったような気がした。
絢香は自分を応援してくれていたと美沙は初めて知った。
どうして自分は絢香のことを信じなかったのだろう、美沙の頭の中でこの三年間がぐるぐると巡っていた。今なら話したいこと、今ならもっとわかりあえること、そんなものがあるような気がした。
もう高校は卒業してしまった。春から新しい生活が始まろうとしている。
美沙にとって、絢香のいないそんな日々が始まろうとしている。
自分はまた絢香ほどの親友に出会うことができるだろうか。いや――。美沙にはこの「探しもの」だけは二度と見つからないだろうと思った。
視界が涙で歪む中、美沙はあることに気が付いた。もう一度だけ、と高梨のLINEを美沙は読み返した。絢香の最後のメッセージが気になったのだ。
『私なんかのために浪人とかバカなの?』
絢香が「バカなの?」という言葉を使うときは、バカにしているときではなく、本当に相手を思うからこそ使う。それは美沙ならばわかることだった。これはどう意味なのか? 美沙がいくら頭で問いかけたところで、誰も答えを与えてくれることはなかった。美沙は失くしたものの「重さ」を知り、過ぎた季節に身を震わせ、堪えきれず涙をこぼした。
「もしかして……絢香も本当は高梨のことを……?」
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