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紅羽高校の合格発表からの帰り道、美沙は嬉しさを半分、そして不安を半分抱えていた。
同じ中学で仲の良かった中里陽香が不合格となり、ほかに同じ中学で特別仲の良い友人がいなかったからだ。来る高校生活に美沙は不安を抱えたまま入学式を迎えた。
はじめてのホームルームでクラスメートが自己紹介していく中で、高梨久志の存在に気が付いた。なぜ教室に入ったときには気づいていなかったのか、そう思うほどに高梨は光る存在だった。
少し癖のある髪、やたらと長い睫毛と大きな瞳は猫を思わせる顔立ちだった。顔だけではなく、彼が持つその雰囲気すべてに美沙は引き寄せられるようだった。
こんな男子とつきあってみたい!
入学まで抱えていた不安は消し飛び、美沙の胸には希望が宿った。
しかし、その三十分後、美沙は新たな不安を抱えてしまった。いや自己紹介の直後から不安の兆しはあった。「ほかの女子が高梨くんに目をつけるのではないだろうか?」と。
そんな不安を表すかのように、美沙は高梨と会話をしている女子がいることに気が付いた。アシンメトリーの前髪が特徴的な子だった。
「絢香も同じクラスだな」
高梨が柔らかな笑顔を浮かべながら呼んだ名で、美沙はその女子が「井沢絢香」という名であることを思い出した。出席番号順で自分のすぐ後ろに座る存在だった。
いきなり名前で呼ばれる「井沢絢香」とは何者なんだ? まさかつきあっていたりするんだろうか? いくつも浮かぶ疑問に答えは出てこなかった。ならば、聞いてみるしかない。
次の日、美沙は後ろを振り返り尋ねた。
「井沢さんって、高梨くんと仲がいいの?」
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