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高校二年となり、三人はクラスが離れてしまったが、美沙は高梨と毎日のように話した。少しずつではあるが距離が縮まっているという感覚を美沙は感じ取り、他愛もない話を高梨が美沙に振ることが、この上ない喜びだった。
相も変わらず高梨はどこかしらの女子から告白を受けるが、誰ともつきあうことはなかった。
二学期のある日、美沙は高梨と二人で帰り道を歩いていた。この日は絢香が用事があるため二人だけだった。
「もうすぐテストだねー。勉強してる?」
美沙が尋ねると、高梨は苦笑した。
「全然。やばい」
「勉強しなきゃじゃん。高梨、中間テストもやばかったんだよね?」
美沙は高梨の成績を知っていた。学年でも下位に位置しており、赤点常連だった。
「そうなんだよなー。卒業……いや、それよりも三年になれなかったらどうしよう」
言葉は悲観的だが、そう感じさせない笑顔を高梨は浮かべていた。
「よくウチの高校に入れたよねー」
「あー、中三のときにすっげぇ頑張った。あの頃が人生でいちばん勉強した」
「そうなんだ?」
「うん、好きな子がいてさ、そいつと同じ高校に行きたくて。偏差値が10以上足りなかったけど頑張った」
「好きな、子……?」
「うん。受かったときに『え、あんたの偏差値で本当に受かったの?』って驚かれた」
「へぇ……」
遠い空を見上げるようにして高梨は言った。美沙はその横顔を見ながら思わず立ち止まってしまった。
高梨はその存在の名前を発したわけではない。しかし、美沙には確信に近い思いがあった。もしかして、高梨の好きだった存在とは――、
高梨と同じ中学でこの高校に進んだ女子が何人かいることは、美沙が脳裏に浮かべた「あの子」以外に数人いることは知っていた。
それでも美沙は「あの子」以外ありえないと思っていた。それを確かめることが怖かった美沙に、高梨が薄く苦笑いを浮かべて言った。
「結局、同じ高校に入っても、絢香はオレには振り向いてくれないんだけどね」
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