彼女が選んだ道

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*  高校三年も後半に差し掛かった十一月のある日のことだった。放課後に学習室で勉強をして、帰るべく廊下を歩いているときだった。隣を歩く絢香が突然言った。 「京都の大学に行くことにしたんだ」  突然の言葉に美沙は耳を疑った。  絢香が京都の大学に進むなど初耳だった。 「建築の勉強したくって。あっちに伊藤教授っていう有名な人がいてね――」  京都の大学を目指す理由を絢香は美沙に説明したが、美沙の頭には入ってくることはなかった。心は落ち着かず、何の感銘を受けることもできなかった。  首都圏に住む美沙たちは、だいたいの志望する学部が近郊に存在する。首都圏を出ることなど美沙は考えたこともなかった。 「いつから……そんなこと考えてたの?」  美沙の疑問に絢香は薄く微笑んだ。 「前々から考えてたんだけどね、学校見学行ったり、ネットで受けられるプレゼミとか受講して、京都に行こうって思ったんだ。私が選ぶべき道はこっちだってわかったんだ」 「そう……なんだ」  美沙は自分がいま思う感情に戸惑っていた。  自分があれこれ恋愛に悩んでいる間に、絢香は自分の人生を考えていた。将来に対する確固たるビジョンを持って進路を決めていたことに、自分との大きな距離を感じた。  そして、絢香が遠くに行くことで、高梨と絢香が結ばれることはないのだと思い、どこか安堵している感情にも気が付いた。  高校に入り、最初に友人となった絢香がいなくなるというのに安堵している、こんな感情が絢香に対する本当の思いだと知り、美沙は自分自身に落胆した。こんな感情を美沙は知られたくなく、できるかぎりの笑顔を作った。 「京都行き、応援するよ。それで受験までの息抜きとかでさ、できる範囲でいっぱい遊ぼうよ」
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