心臓に甘い棘【短編】

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◇◇◇  録画を再生する。  2箇所からの映像はその全てを映し出していた。客側から見えない手元も明確に。ふぅ。本当にね。嫌になっちゃうな。あのバーは居心地がよかったんだけど。うーん。  原田(はらだ)の手元が動いて小さな紙片に数字がかかれる。数量と、金額。やっぱそうだな。原田和真、29歳。表面上はバーテンダー。でも実体は薬の仲介屋で間違いない。どこまで関与しているのかわからないがバーテンダーというのは隠れ蓑だ。  俺も人のことは言えないけどな。  花は好きだから花屋の仕事は嫌いじゃない。原田にも言ったように特に派手な花が好きだ。薔薇とか蘭とかハイビスカスとか。大きくて美しいものは薄暗さを隠してくれる。  実際のところ、花屋というのは情報収集に都合がいい。観葉植物なんて置きっぱなしで誰も顧みない。だからその幹がくり抜かれてその中に小型のカメラや録音機が仕込まれていることなんてザラだ。普段は無線でデータが送信される。けれどもBARユトリカは地下にあって電波が届かない。だからデータの回収には植物の確認という名目で実際に回収に行かなければならない。無線が飛ぶ範囲に近づけばオートでデータコピーが可能だから怪しい素振りを見られることはない。だから労力はたいしたことはない。  俺の収入的な本業はこちらのほうで、奇麗な花を隠れ蓑にして盗撮やら盗聴やら、場合によっても殺しも請け負う。なんでこんな仕事に片足突っ込んだのかってのは色々あるが、今のところ後悔はしていない。おそらく。
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