未来をさがして

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 「まて! この!」  だが力じゃ、ぜんぜん敵わない。  あっというまに床に押し倒された。  まるでフランケンシュタインの怪物だ。  思えば、こっちは四十のオッサンだ。体力的に相手になるわけがなく、手がつけられない。  「くそ! まて! この野郎!」  「やめて! かれの思うようにさせてあげて!」と、止める妻の声なんか耳に入らない。  事故の後遺症で、おれの生殖機能に問題があり、妻とは本当の意味での子供が生まれなかった。これはつねづね申し訳なく思っていたが屈辱感で、冷静な判断なんかできなかった。  もう、頭に血が上りすぎて、立ち眩みがしそうだったんだ。  気が付くと、台所の出刃包丁を左手で握りしめていた。  「ちくしょう! だったら、右腕をもらうぞ! それを繋いで元の身体に戻ってやる!」  妻は両手を広げて、奴をかばった。  「あなた、なにを言ってるの! あれは、もう一人のあなたなんですよ、それに今さらテニスなんてできるもんですか!」  「おまえこそ、なにを言ってるんだ! あいつは人間ですらないんだ! 右腕なんだぞ!」  「わたしにとって息子も同じよ!」  「うるさい! どけ!」  もう、妻の説教なんてたくさんだった。  「今なら間にあう、絶対に探し出して、主人に逆らうと、どうなるか思い知らせてやる!」  「あなたはなにもわかっちゃいない! 探さないといけないのはあの子じゃないわよ!」  「じゃあ、なんだ!」  「自分よ! あなたは人間として大切なものをなくしてる!」  妻はどかないつもりだ。  「うるさい!」  おれは妻を突きとばして、家の外へ出た。  「くそお! あきらめんぞ! きっとあそこだ!」  おれはバス停を目指して駆けだした。  思った通り、あいつは駅へ行くバスに乗り込むところだ。  「まてえ!」  だが運が悪いことは重なるものだ。  焦って、横断歩道を飛び出したのがいけなかった。  いきなり右側からトラックが走り込んできて……。それからは覚えていない。
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