幸せの価値観

2/6
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
私の名前は竹内恵美。順風満帆な学生生活を送り、学生時代に知り合った2つ歳上の優しい彼氏も居て何の問題も無く過ごせていた。友達に将来の夢を聞くと、仕事で成功するとか玉の輿に乗るとか、お金持ちになって優雅に暮らすってのが多い。もちろん、お金はあった方が良いけど、私の夢は、旅行会社に勤めて、30歳ぐらいで優しい彼氏と結婚し、可愛い2人ぐらいの子供達と健康で過ごすという平凡な幸せ。私は夢の1つが叶い旅行会社に内定が決まった。だけど、この会社がかなりのブラック企業……。サービス残業なんて当たり前だし、有休なんて、あって無いようなもの。10連勤ぐらいなら毎月のようにあって、しかも、給料は少ない。それでも、好きな仕事が出来て満足だった。完璧とは言えないけど、普通に楽しく暮らせている。大金持ちにならなくて良いし、大成功する必要なんて無い。健康で不満の無い生活を出来るのが1番だと思う。こんな普通の幸せがずっと続けば良いなと思っていた。 25歳の時、彼からプロポーズされて、何もかも上手くいっていると思っていたのに、現在、35歳独身……。今になって決断を誤ったと後悔している。もう少しだけ仕事をしたいと結婚を先送りにしていたら見限られちゃった……。そろそろ子供も欲しい年頃だけど相手がいない。合コンも何度かしたけど上手くいかないし、お見合いは魅力的な人に当たった事が無い。 私は遂に禁断の決断をする。 ようやく正月休みをもらえた7連休の3日目。黒淵眼鏡に黒のキャスケットを被り、ここ2年ぐらい着ていないコートを身に(まと)う。白の軽自動車に乗って移動する事、小1時間。薄暗い地下の駐車場に車を停め、階段を登って地上へ出る。太陽の陽射しを(まぶ)しいと感じながら、更に歩く事10分。高層ビルが立ち並ぶ街、金宮(きんのみや)の中心だ。仕事では、よく通るけど、プライベートで金宮に来るのは久し振り。私は、その一角のビルに入り、エレベーターで8階まで上がる。ここが目的のお店。受付の美人女性が「いらっしゃいませ」と挨拶(あいさつ)をしてきた。 「こんにちは、予約していた竹内です」 「少々お待ち下さい」 暫くして、奥の部屋へ連れられる。この店は完全予約制。出来る限り、プライバシーを重視して、客同士が顔を会わさないよう配慮されている。美人女性はパンフレットを持って戻ってきた。パンフレットの表紙にはイケメン俳優が、とびきりの笑顔で写っている。美人女性はパンフレットを開いて説明する。 「御希望は西橋秀樹さんで宜しかったですか?」 パンフレットには一昔前にブレイクした俳優の西橋秀樹が笑顔で写っている。現在50歳過ぎだと思うけど、写真は30代のもののように見える。その下には300万円と記入されていた。 「すみません。こちらのリストについて、説明してもらいたいのですが……」 顔写真が無く、学歴と身長が書かれている部分を私は指差し聞いた。 「かしこまりました。こちらは、顔出し NG の方達なのですが、弊社としては、どなたもイケメンだという事を保証致します。金額的には5分の1になりますのでオススメです。とは言え、普通の買い物と違って失敗は許されないので、顔写真のある人の方が断然人気です」 「う~ん……少し考えさせてください」 「はい。大きな買い物ですので、ごゆっくり」 美人女性は席を立った。 私の貯金は約600万円。安月給ながら、結婚資金としてコツコツ貯めてきた。トップクラスのイケメン俳優だと1000万円、ハリウッド俳優ともなると、それ以上になるので手が出ないけど、旬を過ぎた元イケメン俳優だとお買得と考え、西橋秀樹を選ぶつもりだった。彼は今、役者として低迷しているけど、遺伝子レベルで考えれば、年齢は関係無い筈。だから、300万円ならお買い得だと考えて、彼にする予定だったけど、同レベルの遺伝子を60万円で購入出来るなら、そちらにしたい。しかも、彼よりも高身長、高学歴の人を選ぶ事も可能だ。顔は分からなくても、身長と学歴のデータは載っている。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!