幸せの価値観

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彼は私の車の助手席に乗り込み、私の運転で金宮へ向かう。彼は全く喋らない。反省しているのか、それとも……。私は結婚詐欺だったらどうしようと、下手に話が出来ず、車の中には、ずっと気まずい雰囲気が流れているので、音楽を流してごまかした。 前回と同じ駐車場に停めて徒歩で『精子バンク』に向かう。エレベーターに乗り込み、8階のボタンを押した時、ようやく彼が沈黙を破った。 「恵美さん……許して欲しい……こんなつもりじゃなかったんだ……」 私は、彼への愛情や、自分が妊娠している事、また、2人に関係の無い、仕事での不満などが頭を駆け巡り、流れそうになった涙をぐっと堪えた。 エレベーターを降り店内に入ると、先日の美人女性が受付をしていたので事情を話し、担当者を呼んでもらう。暫くすると、奥から、短髪の黒髪をピッチリとセットした背の高い紺色スーツの男性がしかめっ面でやって来て、「シノダと申します」と挨拶をした後、話す。 「困りますよ渡辺さん。ちゃんと申請してもらわないと……」 「すみません……」 渡辺さんは申し訳なさそうに謝った。私は少しだけ安心した。取り敢えず、結婚詐欺では無さそうだ。 「既に1人被害者が出てるんですよ。私が気付かなかったら、もっと多くの人に被害が出ていたかも知れないんですから……。歯の矯正だからって甘く考えているんでしょうけど、歯並びも当然遺伝します。被害者の方には慰謝料を支払わなければいけません」 こういう話は多分、渡辺さんには入ってこないんだろうなと思っていると、美人受付女性が「シノダさん、すみません」と呼び掛け、2人は部屋を出ていった。騙されていた訳じゃないと分かり、少し余裕の出てきた私は彼に質問する。 「渡辺さんってパンフレット見ました?」 「パンフレット?」 「うん。男性の顔写真と金額が書いてあるやつです」 「いや、見てないよ」 「そうなんだ……。渡辺さんってどのランクになるのかなと興味本位で……」 私が笑いながら言うと彼も余裕が出てきたのか、笑顔で話す。 「どうだろう? 俺、顔写真無しだから安いと思うよ」 「顔写真無しなの?」 「うん、ちょっとしたバイト感覚だったから」 「そうなんだ」 イケメンが売りなのに、顔写真無しの高卒なんて需要無いじゃないと思った時、彼が話す。 「俺、頭は悪いけど、一応大卒だからいけるかなと思って」 「え?! 渡辺さん大卒なの?」 「一応ね。スポーツ推薦だから」 そう言えば、プロ野球選手を目指してたって話だったかなと私が思っていると、美人受付女性が戻ってきて、彼を別室へ連れていく。1人っきりにされた後、シノダさんが部屋に入ってきて小声で話す。 「竹内様ですよね?」 「はい」 どうして私に? と思いながら話を聞く、 「先日はありがとうございました。それで、失礼なのですが渡辺様との御関係をお聞きして宜しいでしょうか?」 「あ、一応婚約者です」 「それを聞いて安心しました。実は今回、被害に遭われた女性っていうのが竹内様みたいなんですよ」 え? 私……? 私が選んだ、高身長で大卒の人が渡辺さん? そんな偶然ある?
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