まほろば茶房 翠雲堂

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まほろば茶房 翠雲堂

夏の匂いをはらんだ、灰色に淀んだ空から落ちた水滴がアスファルトを斑らに染めてゆく。 私の心の中を鏡写にしたような空模様はまさに陰鬱と言うに相応しい。 今日、10年以上連れ添った伴侶を見送った。 私には勿体無いくらい素晴らしい人で、誰よりも私を理解し、愛してくれた。 彼と出会ってから、私の世界にはたくさんの色彩が溢れて尽きる事はなかった。 本当に、幸せだった。 だけど、もうあの声を聞く事は出来ない。 あの優しい声を。 眼差しを。 嬉しそうに私を呼ぶ姿は、もうない。 尽きたはずの涙が溢れて止まらない。 もう何処へ帰ればいいかもわからない。 冷たい雨が降り頻る。 このまま全て雨に溶けて消えてしまえば、彼に会えるのだろうか。 ああ。 死んでしまいたい。 消えてしまえばいい。 私なんて。 何故私じゃなかったんだろう。 ざあざあと雨足が強まるにつれて、私の心と体も冷え切ってゆく。 機械的に足を動かす。 傘も差さずにずぶ濡れの私を怪訝そうな眼で見つめる傘の中の他人。 もうどうでもいい。帰る所なんて無いのだから。 ふと、顔を上げるといつの間にか周りが灰色のビル群から緑の生垣や、木々の群れに変わっていた。
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