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バスの事故現場から持ち主不明の荷物が発見された、と連絡が来た。本人も連れて行った方が(というか、けーちゃんは勝手に憑いてくる)いいと思い、警察署へ確認に出向いた。
品の良い紙袋が衝撃でくしゃくしゃになり、ロゴを見ると有名なジュエリーショップのものだった。ホワイトのリングケースの中で光る婚約指輪は、いつの日か、デザインが可愛い、と私が口にした物。確認中にクレジットカードの履歴で、けーちゃんが購入した物だと分かり、そのケースは私の手にやってきた。
「……それ、受け取ってくれる?」
帰り道で、嬉しそうに私を見ている。
「けーちゃんが買ったんでしょ?」
「うん、買ったねぇ」
「プロポーズ、いつから考えてたの?」
「いつからだったかなぁ」
飄々と言い、穏やかに笑う。
「……結婚するって言ってくれたら、教えてもいいよ」
「交換条件?」
紙袋を両腕でぎゅうと抱きしめる。きっと、けーちゃんはこの先、あの手この手で私に結婚を迫るだろう。
一度、口にしてからタガが外れたのか、彼は真っ直ぐと向かってくる。
「私が結婚するって言っちゃうと、けーちゃんはどうなるの? ユーレイは心残りがなくなると消えちゃうんじゃないの? 成仏するために言ってる?」
「うーん、どれかなぁ」
「誤魔化さないで」
ぴたりと足を止め、けーちゃんを見やる。夕暮れ色に染まり、半分以上オレンジ色と化した彼は、空と同じ服をまとっている。
空に、溶けてしまいそう。
「僕がユーレイのまま一緒にいると、君は誰とも結婚しなさそうだから、成仏した方がいいのかなと思ったり、でも、消えたくないなと思ったり……、葛藤しながら、心残りを探してるよ」
試しに、ずっと考えていた結婚について、提案したんだ。
と、続ける。
「……ユーレイとは結婚できないよ……」
けーちゃんははぁと大きく息を吐き、私を見た。
「ふたりでいる非日常が日常になると、結婚って呼べるよね。しろちゃんはそう思わない?」
その解釈はずるいな、と思った。
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