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【1話完結・読切】
「デブとかブスとかバカだとか。そんなサイテーの悪口なんか、世界からなくなってしまえばいいのに」
「そうよ、そうよ。スタイルがいいとか美人とか。そんなのも差別よ。そもそも、ニンゲンはミセモノじゃないのよ」
「ようするに、『個性』とかいうものが存在するからいけないのでは?」
「そのとおりよ! みんな同じで、みんないい」
「そうよ、そうよ」
それから、だいたい100年後。
およそ100万光年カナタの星からコッソリと地球に探索に訪れた異星人は、故郷の星に戻ったとき、こう報告した。
「地球人は、誕生する前の胎児に『遺伝子の整形手術』をほどこして、肌や髪の色に姿カタチ、知能レベルに体力、体型や声など、男女おかまいなくすべてを同一化してしまうのです。世界中どこでも、全員がクローンそのものです。そのうえ、出生後の髪型や衣服なども、すべて死ぬまで均一化されています」
「それでは、どうやって、それぞれの個体を見分けるのだ?」
「以前は、出生と同時にヒタイに名前を刻印されたそうですが、かわった名前が差別されることがあるので、現在は数字と記号とアルファベットなどを組み合わせて刻印するそうです」
「なんとも奇異な星だなぁ」
「職業や経済状況によって生活に格差があってはならないというので、あらゆる仕事は機械化されたオートメーション。地球人は全員が無職で、生活に必要な物資は『地球統一政府』から支給されます。この政府というのもAIによる自動システムですが」
「ほう、それはそれは」
「全員の能力が同じで、とびぬけた才覚を持つ者はいませんから、あらゆる学問や芸術、医学や科学技術の進歩は行き止まり」
「ふむふむ」
「ペットを飼育するのも禁止です」
「それは、なぜ?」
「さまざまなペットの特色が人気を分けて、飼い主の評価を左右するからだそうです。ペットを飼っていない者への差別にもつながるとかで」
「意味が分からん。だが、まあ、ペットにまで画一的な遺伝子操作をされないだけでもマシか」
「スポーツで汗を流すのもハヤリません。運動能力も体力も横並びですから、競い合う意味がない」
「たしかに」
「すべての人間が同じ顔、同じ声、同じ性格ですから、文学やドラマや映画などは真っ先に根絶したそうです。登場人物が全員一緒なんですからね。文字どおり、お話にもなりません」
「なるほど、そりゃそうだ」
「今後は、男女の性別も遺伝子操作で消すそうです」
「だが、それでは、いずれ人口が途絶えてしまうではないか?」
「まあ、まるっきり同じ人間が集まって、まるっきり同じ人生をダラダラ繰り返すだけの世界なんて。なにひとつ娯楽がない、仕事も趣味もない。続けても疲れるだけでしょう」
「そんなものかね。いずれにしても、そのうち勝手に滅びてくれるということか。わざわざ軍勢を派遣して征服することはないな」
「ええ。ナリユキを見物しながら待ちましょう。こんな可笑しなミセモノは、なかなかないですから」
オワリ
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