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1.見知らぬ部屋での目覚め
からだがふわりと宙に浮いているような気がした。
誰かの足音がかすかに聞こえる。横抱きにされ、どこかへ運ばれているようだ。
お姫様抱っこなんて、子どもの頃にされたきりだ。そう思ったら、あぁ、夢を見ているんだなと難なく理解できた。
瞼が重くて、目を開けられない。けれど、抱きかかえてくれている誰かのぬくもりが妙に心地いい。
あたたかくて、優しくて。すべてを受け入れ、包み込んでくれるような感覚。ライブで地方に行った時に泊まる、ちょっぴりハイクラスのホテルにある高級ベッドみたいな柔らかさ。
不意に、そのぬくもりが消えた。どこかへ下ろされてしまったらしい。
もこもこしたなにかが、からだに覆いかぶさるのを感じた。人のぬくもりじゃない。布団だ。まさか干したてではあるまいが、とてもいいにおいがした。
「おやすみ、翔真」
名前を呼ばれたかと思えば、唇にぽってりとあたたかい感覚が降ってくる。一瞬のできごとで、感触はすぐに消えてしまった。
なんだ、今の。
まさか、キス……?
夢の中で手を伸ばす。
待ってくれ。あんた、誰だ?
追いかけようにもからだがうまく動かなくて、ぬくもりをくれた誰かの背中はどんどん遠くなっていく。
待って。頼むよ。今のは一体――?
必死に呼びかけたところで、神崎翔真は目覚めた。
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