なりそめ。

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なりそめ。

真夏に差し掛かる前。 コンビニのコーヒー片手に肩を落とし公園のベンチに座っている。 平日の昼過ぎともあり、ちらほらと子供達が無邪気に遊ぶ姿があるが、僕の眼差しは遠い。 会社の経営不振で22歳の僕はリストラにあい、職を失った。 大学を卒業し、一年しか勤務していなかったために、貯金もそろそろ危うい。 その結果、結婚を約束していた彼女にも振られた。 ベンチで項垂れ座っていると、隣に人が座る気配があった。 ふと見ると、30歳くらいだろうか、落ち着いた雰囲気の男性が座った。真っ直ぐな瞳で正面の子供達が遊ぶ姿を見つめている。 穏やかな瞳だ。 「いい天気だね。日差しはあるが、適度な風もあるし」 「....ですね」 「今日は休み?平日だけど。それとも学生?」 僕は固まった。 「....どうかした?変なことを聞いたかな」 「え....あ、いえ...実は僕....」 全ての事情を見知らぬその男性に話していた。 やりきれない気持ちを聞いて貰うだけで何処かホッとする。 赤の他人なだけに話せることかもしれない。 「....そうか。大変だったね」 返事の代わりにそっとコンビニのコーヒーカップを口にする。 「....よかったら、うちのアトリエで働かないか?」 えっ、と顔を上げた。 優しい笑みの男性に目を奪われる。 「アトリエ...ですか?」 「ああ。部屋も余ってるし、なんなら引越して来てもいい。家賃も浮くだろう?あ、君はちなみに料理はできる?」 僕は、うんうん、と首を縦に振りまくった。 「そっか。じゃ、これでどうかな」 男性が三本の指を立てる。 「三万...」 「いや、三十万。固定給だけど、場合によってはプラスアルファも有り得るよ」 「....最低、三十万....ですか」 「不服かな」 また慌てて首をぶんぶん横に振る。 (神か!この人は!) お先真っ暗だった僕は、思いがけず神に拾われた。
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