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アトリエのある男性の住居は公園からさほど遠くないらしく、男性の後をぴょこぴょこ付いて歩いた。
「ああ、自己紹介、忘れていたね」
男性が立ち止まり、白い名刺を差し出した。
受け取り、名刺を見ると、長谷部広隆 アトリエ・ブロッサム代表の文字。
「...工房とか、そんな感じですか?」
「ああ、まあ、そうなるかな」
「僕は西垣祐希です」
歩きながら自己紹介をし合った。
「幾つ?」
「22です」
「広隆さん...あ、いや、先生は?」
「僕は31。さ、着いたよ」
真新しいとは言えないが、大きな一軒家だった。
玄関を入り、リビングへ。きょろきょろと辺りを見渡しながら中へと入る。
「アトリエは廊下を隔てた一室だけど。仕事の前に腹ごしらえ、と言いたいところだけど、シルエットに差し障るから...先に仕事にしようか?」
(....シルエット?)
「はい!一週間、勤務していなかったから、体がなまってしまっていますし!楽しみです!」
意気揚々とした僕に先生は笑顔を向けた。
「そうか、助かるよ。ちょっと待っていてくれるかな?」
「はい!」
しばらく待ち、先生から手渡されたのは白いバスローブだった。
「...え?バスローブ?」
「浴室は左奥にあるから」
先生の笑顔を僕は目を丸くし見上げた。
アトリエに着くと、キャンバスと椅子があり、中央の床には薄いマットが敷いてある。
「さて。祐希くん、バスローブ脱いでくれるかな」
椅子を引き、先生は座るとキャンバスに向き合いながら僕を促した。
「ぬ、脱ぐんですか...?」
「ああ、言ってなかったかな?僕は画家でね、ちょうど、いいモデルを探していたところだったんだ」
(...聞いてない!)
...でも、やっとありつけた仕事、しかも、最低三十万、家賃も浮く....。
僕は意を決して、バスローブを脱いだ。
「いい身体、してるね」
「....大して筋肉もありませんが...」
「そこがいいんだよ、ノンケって感じで」
「...ノンケ?ってなんですか?」
「ああ、絵画の専門用語だから気にしなくていいよ」
「....はい」
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