29人が本棚に入れています
本棚に追加
私はつまらない女だ。
結城さんみたいに仕事ができるわけでもなく、魅力的な外見をしているわけでもない。平凡な顔に平凡なスタイル、メイクも上手くないしお洒落にだって疎い。
そんな私をどういうことか結城さんは気に入ってくれているようだ。飽きもせず毎日毎日、顔を見ては手を振り、すれ違いざまに笑いかけ、ストーカーのように追い回してランチにも誘い……。
挙げ句の果てには、
「じゃあ、ほっぺにだけなら……良いよね?」
横を向いた私の右頬に、あろうことか柔らかいキスをした。ほのかな香水が香ってきて、私の鼻の奥を優しく刺激した。
「良くありません……っ!!」
脈拍と鼓動は速くなり、体温も急上昇。でも私は平静を努める。
だって、こういう男は自分を格好良いとわかっているし、それに反応する女を見て楽しんでいる節すらあるのだから。男に翻弄される軽い女にだけはなりたくない。
なにより、結城さん、今日が何の日かご存知ですか……?
あのカレンダーの赤丸は、一体いつからあったのか。お局様である佐藤さんに、それが結婚記念日だと堂々と答えたくせに、裏でこんな事をしていると知られたら貴方の評判はガタ落ちですよ……?
最初のコメントを投稿しよう!