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その時、ガチャ、と防災扉が開く音がして、結城さんが私から距離をとった。
ーーー間一髪。
結城さんの二つ下の後輩男子、かつ私と同期の水間君が、「あれっ」という顔をして現れた。
「珍しいですね、お二人が一緒にいるなんて。あ、結城さん、これからお昼ですか?もし良かったら一緒に行きません?駅前のビルの中に新しいお店ができたんですけど、結城さんが好きそうなメニューが並んでるんですよ。紺野さんも良ければぜひ!」
ニコニコ笑うその顔はポスト結城さんと噂されるのも頷けるほどの美青年であり好青年だ。結城さんと同じくらいの背丈で、色素の薄い猫っ毛と柔らかい物腰が私にとっては何よりの食い付きどころである。
「いや……俺は……」
「良いですね!結城さん、ぜひ行ってきてください。水間君、私はお弁当持ってきてるから、今回は遠慮しておくね。誘ってくれてありがとう」
なんだか私、俄然元気が出てきた。水間君、グッジョブだ。
水間君は、こんな私なんかに残念そうな顔を向けてくれる。
「そっかぁ、紺野さんともたまにはゆっくりお話してみたかったんだけどな。じゃあ結城さん行きましょう!早く行かないと混んじゃって席が無くなるらしいんで、俺先に行って並んでましょうか」
この意外にもグイグイ行く感じがツボなのである……!私の通勤鞄の奥底にひっそりと隠してある愛読書……。男性が男性を愛し、時に切なく、時に涙を流し、しかし最終的には両想いとなり幸福感に満たされながら愛を確認し合う……そう、BL!!
ーーーを、そこはかとなく愛する女29歳。それは私だ。
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