ウインク

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ウインク

「お待たせ……」待ってると言ったはずなのに遅れてきた唯に誠は少し苦笑いをする。 「ああ、僕もさっき来たところだ」実は、もうそろそろ帰ろうかと思っていたタイミングであった。 「ねえ、ここで話すのもなんだから、場所を移しましょう」彼女はそういうと先頭を切って歩き出す。たしかに校門で待ち合わせをする二人はかなり生徒達の視線を集めていた。 「……」誠は無言のまま、彼女の後を着いていった。  しばらく歩いて行くと、少し前に二人でジュースを飲んだ公園の前に到着した。 「ここでいいわ」唯は誠の意思を一切確認せずに勝手に決めて入って行った。 (自己中なヤツ……)誠は溜め息をついた。公園の木陰まで歩くと突然唯は振り向いた。なんだか悪戯っぽいその表情に、彼は少しドキリとした。 「あのさ、男山くん……、お願いがあるんですけど……」彼女は目を少し細目て視線を反らす。 「えっ!?」誠は嫌な予感がする。彼も何度かこんなシチュエーションを経験している。たぶん、次に来る言葉は……。 「私と恋人になってくれないかしら」言いながら唯は長い髪をかき揚げた。告白にしては、少し高飛車な感じであった。 「……」誠は目を見開いた。正直、何度か女子から告白された事があった。しかし、まさか彼女から恋人になってくれと言われるとは思わなかった。 「ねえ、返事は?」なんだかその表情は愛の告白をする女子の顔とは程遠いものであった。 「いや……、あの、僕はそういうのは……、ちょっと……、ごめん……」誠は言葉を濁しつつ断る。たいてい、こういうと泣かれてしまう事が多かった。 「ふふふ……」唯の肩が微かに揺れる。 「えっ!?」唯の反応に誠は戸惑う。 「あはははは!まさかフラれるとは思わなかったわ!」なぜか爆笑している。その態度に誠は気を悪くする。 「なにが面白い?」ムッとした気持ちがそのまま言葉にでてしまう。 「ああ、ごめんなさい。気を悪くしないでね。でも、貴方は私と恋人にならないと駄目なのよ」呼吸を整えると彼女は話を始めた。 「……」誠は訳が解らず頭を軽くかきむしる。 「私、転校してきてから毎日毎日、男子に好きって告白されてウンザリしてるの」唯は近くにあるペンチに腰をドカッと落とした。 「……」誠はベンチの埃を手で払ってから、隣に座った。 「でね、私、もう嫌なのよ。女子達にも白い目で見られるし……、そこで思い付いたのよ」彼女は前のめりに体を傾けて笑う。 「なにを?」 「私が彼氏を作れば誰にも告白されなくなるだろうって事よ。それに男山くん、彼女居ないでしょ?」 「どういう事?馬鹿げている!何を言っているか理解できない!」誠は言葉通り呆れた顔をして立ち去ろうとする。その制服の裾を唯は掴んだ。 「貴方は断る事は出来ない筈よ……」彼女は小悪魔の顔を見せる。 「えっ?」誠は不意に服を引っ張られて驚きの表情を見せる。 「貴方…………でしよ?」彼女は耳元で呟いた。その言葉を聞いて、誠の表情がひきつる。 「な、何を馬鹿な事を!?」 「その反応は、やっぱり……、当たりでしょう?」唯は誠の制服の裾を手放した。 「そんな筈ないだろ!何を根拠に!!」誠は目を見開く。 「実はね。私、最初からわかってたのよ。でも、皆には内緒なんでしょ?」唯は余裕の顔をして足を組んで腕組をした。 「……」誠は返す言葉を失って呆然としている。 「ねっ、だから私の彼氏になってね🖤」唯は可愛くウインクをしながら首を傾げた。
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