デート

1/1
前へ
/7ページ
次へ

デート

 次の日曜日に誠は不本意ではあったが、唯とデートすることになった。  朝、10時に駅の改札で待ち合わせ。誠の意志は全く考慮されないまま、彼女に決められた形であった。 「全く……、時間にルーズなヤツだな……」先日の校門での待ち合わせもそうであったが、彼女が率先して時間を決める割には、その時間に来たためしはなかった。どうやら、時間に無頓着な女子のようである。誠は目を閉じて改札前に生えている樹木に体重を預けてため息をつく。 「ねぇ君、誰かと待ち合わせ?」なんだかチャラい感じの男が声を掛けてくる。その声に反応して誠は男の顔を睨み付ける。「あ、あれ、男の子だったか……、悪い……」男はばつが悪そうに退散していった。少し前髪が長い誠は、女の子に間違われる時があり、その度にウンザリする。 「いい加減にしろよ……」誠はそろそろ帰ろうかと樹木から体を離した。 「ごめん、少し遅れちゃった」悪びれもせずに唯が姿を見せた。しかし、どう見ても時間を気にして急いで来たという感じではなかった。 「15分遅刻!」誠は少しムッとしながら腕時計を見せる。 「素敵な時計ね」唯はニコリと微笑んだ。 「ふん」なんだか怒るのが馬鹿らしくなった。 「それじゃあ、行きましょうか」言いながら、唯は誠の腕に、自分の腕をを大胆に絡めた。 「お、おい!」突然の事に誠は躊躇する。 「だって、私達恋人なんだから、これくらい普通でしょ」また悪戯な笑顔を見せる。 「そういうのは徐々にだね……、っていうか恋人のふりだけなんだろ!」誠は慌てて腕を引き抜く。 「いいじゃない。減るものでもないでしょう」まるでからかうように笑っている。 「なぜ、こんなデートしなくちゃだめなんだよ。別に話を合わせておけばいいだろう?」このデートもどきのお陰で自分の休みが消費されてしまう事に、誠は少し不満であった。 「駄目よ!キチンと既成事実を作っておかないとボロが出るわ」唯はもう一度、誠の腕に絡み付いた。 「……そんなもんなのか」誠は呆れるようにため息をついた。 「切符は私が買ってくるわ」そう言い残すと、唯は切符の券売機に向かって小走りで駆けていった。 「ああ……」誠は再び樹木にもたれかかった。ふと、遠くから自分達を見つめる視線のようなものを感じて辺りを見回したが、誰も見当たらなかった。「気のせいか……」誠は一人納得した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加