懇 願

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懇 願

「すいません。一緒に撮影してもらえますか?」老若男女構わず声をかけてくる。唯と誠は嫌な顔をせずにその要望に応えていく。 「やっぱり役者さんは綺麗ねえ」年配の女性が唯をマジマジ見つめて呟いた。 「いいえ、そんな・・・・・・」唯は少し恥ずかしそうにに頬を赤らめた。まんざら、嫌ではないようであった。 「ちょっと、お二人いいかな?」急に年配の男性が声を掛けていた。誠は少し怪訝そうな顔をして彼を見た。 「私はこういうものなんですが」言いながら彼は名刺を差し出した。そこには、東幸太郎と名前が書かれてあった。 「東幸太郎・・・・・・・さんって、あの・・・・・・・・、まさかあの!?」誠はその名前を口にして驚愕の表情を見せた。  東幸太郎、それは著名な映画監督の名前であった。そんなに映画に詳しくは無い誠であってもその名前をしっていた。 「僕の事を知ってくれているんだね。ありがとう。君達どこかのプロダクションに所属しているの?」東は二人を指さした。しかし、当の本人たちはプロダクションと言われてもピンとこずにキョトンとしている。「あっ、すまない。どこかの芸能事務所に所属している役者さんなのかい?」言葉を修正した。 「い、いいえ!そんなとんでもない!!僕らただの学生ですよ!」二人は慌てて両手を振る。 「これから、時代劇の撮影をするんだけど、お姫様の役の女優が交通渋滞でこれそうにないんだよ。代わりにお願い出来ないかな?」両手を合わせて拝むかのように東は頭を下げた。 「えっ!?私・・・・・・・、ですか!無理!無理!無理!無理!!」唯は激しく頭を振って、頭に乗せた(かつら)を飛ばしてしまいそうな勢いであった。誠は慌てて、その頭の止めた。 「いや、大丈夫だ。セリフは無いから!立っているだけでいいから!」また、唯に拝むように頭を下げる。なんだか切羽詰まっている様子であった。 「せっかくだから、やってみたら……」誠は必死に懇願する監督が可愛そうに見えた。 「彼氏君、ありがとう!」東監督は誠の手を掴んでお礼を言う。 「いや、彼氏違うし!」誠は激しく首を左右にふる。 「ちょっと、勝手に決めないでよ!……でも、まあ少しだけなら……」唯は少し折れたようであった。 「ありがとう、本当にありがとう!」今度は唯の手を掴んで礼を何度も言った。よっぽど困っていたのであろう。 「はあ……」唯はため息を一つついた。
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